●最初の絵本が生まれるまで
─── 中川さんは沢山のイベントでお話したり歌を歌ったり。子どもが喜ぶ、笑っちゃうのは一緒だと思うんですけど、そのなかでなぜ絵本を書かれるのでしょうか。
絵本は保育園の先生のころから詳しいほうで、いつかこんなものを書きたいなあという気持ちはありました。でも絵は下手なのでどうやって書いたらいいかなと。・・・ちょうどベネッセに掲載する歌をつくっていたとき、編集者に見せてもらった『こどもちゃれんじ』に8ページくらいのお話があった。「これ、俺に書かせてよ」と言ってみたの。まだ一回も書いたことないのに。でも書ける気がしたから。そしたら3か月後くらいに、あんまり時間がないんだけどお願いしたいんです、と。芋ほり遠足の話を書いてほしいという依頼をいただいたのね。・・・ところがすぐ出来ないわけさ。歌なんて1日あれば出来る。同じ歌を2日以上考えたことないから。毎日毎日考えて、一週間考えて何とか完成。出来たのをファックスしたら、面白いですと言ってもらえた。それが1冊目の『さつまのおいも』だったんです。でも実は『こどもちゃれんじ』ではおいもがぬかれるところで終わりだった。後になって単行本にするにはちょっと束が足りないので、後半考えてくださいと言われて・・・残りは15分でできた。あとは逆襲、「わたしたちの勝ちでごわす」で落とせばいいって考えたの。最初からあったみたいな話でしょ、実はそうじゃないんですよ(笑)。
─── 初めてで、出来ないな〜と言いながら一週間で書き上げたんですね、すごい!完成したときは「出来た」と思われたんですか。
これでいいかなと思ったんですが・・・(「ピーマン村」シリーズの絵を描かれている)村上康成さんに見せたら「このシーンいらない」「このシーンもいらないよ」とズタズタにされて、ひたすら綱引きにもっていくだけに変わりました。新人だから、そうですか、と恐れ入って(笑)。
─── 「ピーマン村」シリーズも年間とおしてのシリーズですね。
でも「おたんじょう月絵本」シリーズのように12か月分まとめて依頼されたのは初めてなんですよ。「ピーマン村」シリーズはね、まだ『さつまのおいも』1冊しか出してないのに、実は僕が年間スケジュールみたいなのを企画書にして出版社に提案したんだ(笑)。『さつまのおいも』を11月の話にして、1月はお正月、2月はと・・・。もともと保育園では行事のときに絵本をつかうことが多いわけ。ところが僕が保育士だった当時は、絵本も紙芝居もあまり面白いのがなくて。行事なんかやらなくていいよと言うのは簡単だけど、どうせやるなら楽しいほうがいいじゃない。そんな助けになる絵本があったらいいだろうなと前から思っていたと。そう説得したら企画が通った。 「ピーマン村」シリーズでお馴染みの園長先生は2冊目の『たなばたプールびらき』で初めて登場したんですよ。七夕かざりの「天の川で泳いでみたい」という子どもの願い事を見て、おりひめとひこぼしが招待してくれることになった。天の川までいくのに子どもだけではやらせられないじゃない、遠いし(笑)。大人の引率が必要だと思って、園長先生をつくった。それで文章で「わたくし、えんちょうせんせいですが」と演説するシーンを書いたら、村上さんがこの園長先生、男?女?と聞いたんですよ。男かなあ、と答えた。そしたらこの絵です(笑)。(※ご存知、中川ひろたかさんにそっくりな園長先生です)女かなあと答えてたらこの絵は生まれてない。それから園長先生はずっと登場するんですけどね。今ではいろんな人が、いろんな本で僕の顔を描いてくれるんだよねえ。大島妙子さんは『歯がぬけた』で、長谷川義史は『じゃがいもポテトくん』とか『おこる』に。『おこる』ではうちの犬のブブヒコを連れて・・・(笑)。
─── 本当だ、そっくり!(笑)。そんな「ピーマン村」シリーズは、今ではすっかり季節の本の定番シリーズになってますよね。
●「おたんじょう月絵本」シリーズ制作秘話と、音楽の話
─── もうすぐ4月生まれ『さくらのさくらちゃん』が発売になりますが、今は何月くらいまでお話を書いていらっしゃるんですか。
お話はもうぜんぶ出来てます。二週間で書いたの。毎日書いてたよ、鬼のように。はい今日は6月、今日は7月・・・。二週間で12本じゃなく13本書いたんですよ。というのは8月を書いて送ったら編集者にこれはシリーズから外して別に出版しましょうと言われて。そちらは年内に出来る予定だそうですが。
─── えーっ!ぜんぶ話の雰囲気が違うので1月ごとに少しずつ書いているのかと・・・。文字の量も違いますか。
違います。でも文字は『ふくはうち』がいちばん多いかな。あ、11月のどんぐりの話も多いですね。
内容について3月までお話したので、4月に戻って順番に説明すると、4月は『さくらのさくらちゃん』。入学式の朝、家の前で写真を撮ってるときに、「は〜ん、にゅうがくしきかぁ。じゃ、わたしもいってみてこよう」と桜の花びらが男の子の頭に落ちる。その子の頭の上から一日を観察するお話です。入学式の晴れがましい、誇らしげな子どもの感じと、絵のディティールが面白い。時間の経過や細かな風景がいっぱい描きこんであるんですよ。どんどんページをめくらないで、時々戻ったりして何度も見てほしいですね。
5月は『僕たち子ども宣言』です。『ひとはみな、自由。世界人権宣言』(主婦の友社)を訳したこともあって、子どもの目線・視点から、人権宣言絵本を作ってみたいと思ったんです。反応が楽しみだよねえ・・・みんなどういうふうに読んでくれるかなあと思ってます。世界中に発信したいと思って、対訳で英語をつけたんですよ。
6月もまたいいんですよ。長靴と雨傘の話。実はいちばん最初にできたのが6月なんです。何のひっかかりもなくというか、さあーっと自然にできた。そういうふうに完成したものって、だいたいいいものじゃないかな。
7月がはたこうしろうさん、海の話。8月が飯野和好さん、カボチャとスイカの話。9月が松成真理子さん、お月さまとくまの話。10月が山本直孝さん、しりとりレストランの話。11月がどんぐりの話、これがまたいいんだ!本当に楽しみ。12月が村上康成さん、雪だるまの話。
─── 絵ができあがってくるときというのは、どんな感覚なのでしょうか。
その絵を見るときがいっちばん楽しみだもの。ほんとに絵が描けなくてよかった(笑)。歌だと詞が先にあって、後から僕が曲をつけることが多いわけです。そうすると作詞家が最初のリスナーで、こんな曲がついたよと聴かせて、たとえば新沢としひこくんが「すっごくいい歌ですねー!」なんて喜んでくれるとものすごく嬉しいの。でも絵本では逆に、いつも喜ばせてもらってるわけですね。人とモノづくりをするのが面白いのはそんなふうにプラスアルファの力になるところ。相手を喜ばせたい、驚かせたい、笑わせちゃいたい・・・それが力になる。
─── (ここで絵本ナビ代表金柿より)僕は、中川さんが作詞をしているとずっと思ってたんですよ。
僕も不思議ですよ、文章家なのにって。でも曲のほうが得意。音楽の構成と絵本、似てるんだよね。絵本ってとても音楽的。たとえば(絵本をめくりながら・・・)ここは1番Aメロ、2番3番とAメロが3回続いた後に、サビのBメロが入って、またAダッシュ、そしてまたBメロになって、ぐわーんってエンディングにむかって、最後ばーんとストリングスが入ってさ。間奏が入ったり、またAに戻ったり、いろんな形があるじゃない。Aパターンが続いたから次はちょっと変えたいな、構成上そのほうがダイナミックだなとか。だから作曲家が絵本のテキストを書くのはありかなと。こじつけましたが(笑)。
絵本では言葉のリズムもすごく重要だから、書くときは必ず声に出して読んでます。以前黙々と書いてそのまま出版されちゃったことがあって、失敗しましたね。読もうとすると口がまわらない。ここは逆のほうがよかったとか・・・。もちろん読み聞かせばかりが絵本じゃないので黙って読む絵本があってかまわない。それでも、書く人は、実際に声に出して読んでみたほうがいいと思う。