●ばけたくんにモデルが存在する?
─── それで、ばけたくんが変身した食べ物がどれもリアルに描かれているんですね。さらに前の食べ物の残り方も絶妙!
そういえば、ばけたくんにはどなたかモデルがいると聞いたのですが…。
岩:それはうちの息子です(笑)。
息子を寝かしつけるときに即興でおはなしを作っていて、そこで生まれたキャラクターなんです。
うちの子が「たっちゃん」っていうので、その「た」をとって「ばけたくん」にしたんですよ。
─── そうだったんですか!もしかして、息子さんも食いしん坊だったとか?
岩:もう、すっごく食いしん坊で、うどんとか手づかみでワシワシ食べて…。
食べることへの意欲がすごく強かったんですよ。
私自身「よく食べることは良いことだ」って思っていたので、そんな様子をジーッと観察してました(笑)。
─── まさに、ばけたくん(笑)。息子さんは岩田さんの絵本について何か言われたりしましたか?
岩:もう中学生になっていて、絵本を卒業してしまったんですが、私が原画を描いているのをじーっと見て、「ママ、絵、上手いじゃん!」って褒めてくれました(笑)。
それと今、親戚の子がちょうど絵本を読む年なので、2作目のアイディアで困っているときに、「今、おばちゃん、すごく困ってるんだけど、ばけたくんは何にばけたらいいと思う?」って聞いたりしました。
そうしたら、幼稚園に通っている親戚の子が「ぼくが好きなのはいくらだな」って言って、もう一人の子が「カレーライス!」。その後「ごはんとカレーは別々に描いてね」ってお願いされました。
─── 「カレー」と「いくら」! 作品にもしっかり生かされてますね。
それにしても、絵本を読んだだけでは分からない、沢山の苦労と紆余曲折が『ばけばけばけばけ ばけたくん おみせの巻』にはあったんですね…。岩田さんが感じる1作目と2作目での一番の違いは何ですか?
岩:ほとんど全てです(笑)。…が、一番の違いは編集のTさんと一緒に、ゼロから作り込んでいったところでしょうか。
前作は言葉から原画から、発想に任せて自分で考えて作った感じですが、今作は構築していった感じがあります。文章もかなりTさんにアドバイスをいただきました…(笑)。それが客観的に考えるきっかけにもなってよかったですね。
最終的に前作の良いところを生かしつつ、仕上げることが出来たなって思います。
▲おまけ画像!岩田さん特製ばけたくんぬいぐるみ、子どもたちが描いたばけたくんの絵と韓国語版のばけたくん。
●メリーゴーランド「絵本塾」で絵本の基礎を学びました。
─── 先ほど絵本塾の話が出ましたが、もともと絵本作家になりたいと思われていたのでしょうか?
岩:子どもが生まれるまでは、絵本に興味があったわけではなかったんです。
子どもが生まれて、図書館で絵本を選ぶようになって「うわ〜、すごいな〜!」って感動して。
それまでデパートの広告デザインなどをやっていて、絵を描いて食べていきたいとは思っていたのです。それが一気に「絵本を描きたい」って気持ちに変わりました。
それから、ページ数とかテクニックとか独学で勉強してみたんですが、その頃はまだ「自分の子どもを主人公にして絵本が描けたら良いな〜」と考えている、普通のお母さんでした。
でも、もっと専門的に絵本について勉強できないかと思ってインターネットで探してみたら、丁度そのとき住んでいた名古屋近辺で講座が開催されているのを知って応募しました。
それがメリーゴーランドの絵本塾でした。
─── メリーゴーランドの「絵本塾」は1994年から開催している、絵本作家になるための養成講座ですよね。過去の受講生には石井聖岳さんや山本孝さん、山岡ひかるさんなど絵本作家になられた方も沢山いらっしゃいます。実際に通ってみてどうでしたか?
岩:すごく大変でした!
毎回ラフを作って、講師の方に見てもらうんですが、作品に対するアドバイスが容赦なく的確で厳しく、大量に飛んでくるんです。数時間経つ頃には受講生はみんなボロボロ。頭の中がパンパンでフラフラになって帰っていきます。
でもそれで終わりではなく、次回までに作品を修正してまた提出するのですが、言われた通りに直しても納得してもらえない。
「あなたの作品なんだから、あなたが納得して直したものじゃないとダメだよ」って。
中途半端なものは見てもくれなかったですね。
─── かなりハードな講座なんですね。
岩:それくらい迫力のある講師の方に見ていただいていたので、今でも編集さんに意見をいただいたり、ラフの書き直しを言われたりしても、あまり落ち込まないんです。タフさは身についたと思います(笑)。
T:私もそう思います。言われることが当たり前と思ってくださるのは、こちらとしてはとても助かります。
─── 講師の方のアドバイスで印象に残っていることはありますか?
岩:色々ありますが…。
作品に反映できたのは、『とんねる とんねる』でモグラのトンネルに入っていくシーンです。
これは最初、かなり大きな穴に入っていってたんですが、講師の方が「モグラのトンネルはこんなに太いんかい?」って言われて…。痛いとこ突かれた!って思ってたら、「モグラのトンネルを、うどんみたいに入ってったらええやん」って。
「そうか〜!」ってすぐアイディアをいただいて(笑)、ぬるぬる〜とのびて面白そうな動物は何かな…と選んでいきました。
─── キリンとかタコとか、聞いただけだと「絶対、入れないよ」って思うんだけど、岩田さんの絵を見ると「いけるいける!」って思えちゃう(笑)
このトンネルをくぐっていく動物達を見ていても、ばけたくんを見ていても、共通して感じるのは読んでいるこちらの体がむずむずしてくるような不思議な身体感覚。可愛いんだけど、どこかゾゾゾ…とする独特な(笑)。そこがとっても魅力的。今後の作品も楽しみなんですが、どんな作品が控えているのでしょうか?
岩:ごめんなさい、実はお知らせできるものが何もなくて…。5冊くらいラフがあればよかったんですが…。
あ!でも、「ばけたくん」の3作目は作る予定でいます!
─── 本当ですか!それはすごいビッグニュース!!今度はばけたくんがどんなことになるのか・・・とっても楽しみです!
最後に、先輩ママとして、絵本ナビ読者の皆さんに絵本の楽しみ方などのアドバイスをお願いできますでしょうか?
岩:そうですね…。私は子育てが始まって、今まで自由に行けていた美術館や映画館に行けなくなってしまったことにちょっとしたストレスを抱えていた時期があったんです。
そんなときに子どもと一緒に行った図書館で絵本を見て、「美術館に行かなくても、こんな素敵な絵が見られるんだ」ってすごく感動して、救われました。
私にとって、好きな絵本を見る時間は子育ての合間の癒しの時間だったんです。
そんな楽しみ方を絵本でしてみるのもオススメです。
それと、絵本を通じて子どもとコミュニケーションを取れたことも、すごく救われた経験です。
子どもって、その日あったことを聞いても、なかなか話してくれないときもあるじゃないですか。
それは話さないんじゃなくって、きっかけがないから思い出せないってことが多いと思うんです。
でも、例えば幼稚園の絵本を読んだときに、それがきっかけとなって「今日、幼稚園でもお砂場遊びしたんだよ!」とか話してくれたり、絵本で読み聞かせていた言葉を急に話すようになったり…。
普通の会話では分からない成長が、絵本を通して気づくことができるのも魅力ですよね。
─── ありがとうございました!
(取材を終えて)
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そんな岩田さんは、中学生になる息子さんがいるお母さんでもあります。息子さんが小さい頃にお気に入りだった絵本は「こぐまちゃん」や「11ぴきのねこ」、「ころわん」シリーズなど。
そして小学校に入ってはまったのが「かいけつゾロリ」。なんと作者の原ゆたかさんのサイン会に行くほどの大ファンだったそう。
現在、ゾロリにぞっこんの息子を抱える母としては、やっぱりみんな同じなのね・・・とはげしく共感!
でも、「すぐマンガに行きますよ(笑)。うちの子は今、マンガばかりですから…」
それはそれで、ちょっぴり複雑だったりして…(笑)。
(編集協力:木村春子)