●リアルさを追求するために、一番電車に10回以上乗りました(笑)。
─── 本当ですか!
はい。一人だと怪しまれそうだから、妻(※)にも協力してもらって(笑)。始発電車をホームから見ることってあまりないでしょう。
※奥様は絵本作家なとりちづさんです。
─── はい。
一度見てみると感動しますよ。真っ暗な中で車庫のシャッターが上がって、そこから電車のライトがこちらに向かってくる…。すごくドラマチックな光景。
それから、この四谷駅の場面は、すぐにトンネルに入ってしまうから普通では見られない構図なんですよ。これも2人で土手に上って見に行ったりして(笑)。
きっと電車に乗っている人たちにも見られてましたね…「随分熱心なマニアだなぁ…」って思われてたんじゃないかな(笑)。
資料は竹村氏にもお願いして、いっぱい写真を用意してもらいましたね。
─── この東京駅を上から見た絵も資料があったんですか?
これを描きたくて、ヘリコプターに乗りました(笑)。でも、ヘリコプターは600m上空からだったから距離がありすぎて…。結局今回は使わなかったんだよね。
いつかリベンジしたいと思ってます。
─── そこまでこだわられたなんて…。
1枚描くのに時間はどれくらいかかったんですか?
一番かかった絵で2週間くらいかな…。僕は原画を描くとき定規を使わないんですよ。だからまっすぐな線がなかなか描けなくて、細かいところとか本当に大変でしたね。何か、絵を描いているというより、模型を作っている感じでした(笑)。
─── 色も塗り重ねられているところとかとてもきれいですよね。どうやって塗っているんですか?
実はこれ、紙を2枚つかって描いているんですよ。最初に線だけ描いて、その上にトレーシングペーパーを乗せて色を塗ってるんです。そうすると失敗しても、上のトレーシングペーパーを変えればすぐに修正できるから(笑)。
▲そう言って貴重な原画を見せてくださいました!!
きれいな色彩がのっている紙をめくると…線画だけになるのです。とっても繊細な仕事なんですね。
今回は特に細かい作業が多くて…。でもすごくワクワクしているから眠るのがもったいない!起きたらすぐ描きたい!って心境でした。
その甲斐あってか、知り合いの子どもに出来上がった絵本をプレゼントしたら、お母さんが「毎晩、抱きしめて寝ているんですよ」って教えくれた時は、「あ、僕と同じだ!」って、嬉しかったなぁ。
─── 大友さんも絵本を抱いて寝てるんですか?(笑)
そう。僕、自分の絵本が出来上がると、1ヶ月ぐらい抱いて寝てるんですよ(笑)。それと同じことを、2,3歳くらいの子が…多分、この絵本の内容をすべて分かっているわけではないと思うんですよ…でも、この絵本でしてくれたことが本当に嬉しかったですね。あ、伝わったんだって思いました。
─── 理屈や内容を超えたところで、作品の面白さやリズム感や、大友さんの一番電車への思いが伝わったからだと思います。
そうだと嬉しいなぁ。一番電車って、日中の空いている時やラッシュ時とも違う、独特な雰囲気があるんだよ。だからその空気感を感じたくて、原画に入っても何度も何度も乗りにいきました。
本当は乗っている人も資料として写真を撮りたかったんだけど、あまりおおっぴらに撮ることもできないし…。
─── 電車に乗っているお客さんをよく見てみると、「この楽器を持っている人は新宿駅で乗って、東京駅で降りたんだね」とか「この人はどこまで行くんだろう…」とか会話も弾みますよね。
実は僕と竹村氏も、この絵本に登場してるんですよ。
─── え!そうなんですか? どこですか?
竹村氏は、この三鷹駅で交代した車掌さん。ほら、ひげが生えているでしょう。本当はひげを生やすのは職業柄、あまりよくないらしいんだけど、彼が最後まで貫いたポリシーなんだって(笑)。だからそのまま描いたんだよ。
それから僕は、この忘れ物を捜す場面で寝ている絵描き。前の夜に飲み会があって、終電に間に合わなくて、今帰りなの(笑)。
─── 本当に、何度読んでも新しい発見ができる絵本ですね。