●カーター氏VS金柿 ムシ談義勃発?
─── なるほど。「あかまるちゃん」シリーズは非常にアーティスティックな絵本ですが、カーターさんは「むしむし」シリーズのような、ポップでかわいい作品もありますよね。2つの違いがとても魅力的に感じられるのですが、「むしむし」シリーズはどのように生まれたのでしょうか?
「むしむし」シリーズは僕がはじめて手がけたポップアップブックです。この絵本は虫が大好きだった子どもの頃の僕自身の体験がベースになっています。子どもの頃、僕は毎日のように外に出かけて、草むらに落ちている木や石をひっくりかえして虫を探しまわっていました。
─── 子どものころに見つけた虫の中でも、特に印象にのこっているのはありますか。
もちろん、ありますよ。石の下に隠れている虫で、よく見つけることができた虫といえば、"Potato bugs"ですね。
─── "Potato bugs"?
僕はPotato bugs…って呼んでいるんだけど…日本では何て呼ばれているのかな…分からないな…。
絵なら描けるよ。
…(絵を描きながら)"rolly polly"とも呼ぶね。
─── (一同)あー!ダンゴムシだ。
ダンゴムシ!
石の下でみつけられる虫では、ダンゴムシが好きでしたね。日本にもいますか?
─── いますよ。
そういえば、父が話してくれた日本の話の中で、日本人はカマキリをつかまえて飼っているといってました。カマキリは、僕が子どもの時に一番好きだった虫なんです。
─── 私は、子どものころは小さいトカゲが好きで、よく、頭の上にのせて学校にいってました(笑)。
僕の子どものときもすぐ近所にトカゲはいたけれど、とにかく動きがすばやくて、つかまえられなかった…何度もつかまえようとしたけれど。
─── トカゲやバッタをつかまえるのが得意だったんですよ。「ッ!」って(すばやい動き)
一同笑い
僕は一度ね、蜂をつかまえようとしたことがあるよ。
「つかまえた!」「ギャー!(泣)」って。(笑)
それ以来、二度とつかまえようとは思わなかったけどね…。
─── 子どもの頃のムシ談義は尽きないですが、ポップアップの話に戻って…(笑)。
「あかまるちゃん」シリーズと「むしむし」シリーズを作るとき、カーターさんご自身の中で、意識的に分けていることはありますか?
それはありますね。
「むしむし」シリーズのときは、作品にコンセプトがあるので、文章とポップアップのしかけの比率が同じくらいになるよう、心がけています。仮に面白いポップアップのしかけがあっても、文章とうまくバランスがとれなかったら、そのページを使わないこともある。それくらい、各要素のバランスが均等であることを意識してつくっています。
一方で、「あかまるちゃん」シリーズは、ポップアップのしかけのほうに比重が置かれます。納得いくまで、そのしかけを組み立てて、文章はその後で足していく。一番重要なのは、ポップアップのしかけなんです。
この2つは作っていく過程は全く違いますが、どちらの作り方も僕は好きです。
─── これは他でも多く聞かれる質問かとも思いますが、ポップアップのアイデアはどのようにして考えるのでしょうか?
それは世界で一番難しい質問ですね…子どもたちにもいつもこの質問をされるんだよね(笑)。
この質問に対して、何と答えていいのか、正直よく分からないんです。
ただ、子どもたちに言っているのは、「僕は四六時中、アイデアを考えて、考えて、考え続けているんだよ」ってことです。
例えば、このノートは僕がいつも持ち歩いてるものなんだけど、何か少しでもアイデアがひらめいたら、すぐに書きとめることにしています。
このノートを後で見て、そこからアイデアに落とし込んでいくんです。
─── 具体的には、アイデアのひらめきはどんなところから出てくるのでしょうか?
例えば今、新しい虫の本にとりかかっていたとすれば、どの虫を登場させようか、このアイデアノートをひととおりみるんです。もし、アイデアにいきづまったりしたときは、自然に関する本を見たり、実際に紙をさわって、実験することによってインスピレーションを受けます。
あとは、目的もなく、何ができるか、いろいろな形を紙で実際に作ってみたりしながら、ポップアップの構造を探っていってますね。
─── カーターさんが言われると、複雑なしかけを考える作業がとても簡単に聞こえるのですが、実はすごく数学的というか…、とても複雑な工程が必要ですよね。
失敗などはしなかったんでしょうか?
もちろん!失敗は何度もしましたよ。でも、失敗は、実験に欠かせないものです。
イメージしたことが、もしうまくいかなくても、「次はこのレイヤーを加えてみたらどうだろう…」「ここをもう少し複雑にできないだろうか…」と手を加えて変化させていきます。だから、1つの作品を作るのに、とても長い時間がかかることもあります。
─── 作品を作るときに、カーターさんが特に大切にされていることは何ですか?
いつでも、自分が小さい男の子みたいにワクワクするものを作ることです。何を作っていても、「自分が読者だったら…どんな風に楽しむかな?」ということを考えながら作っています。
●子どものためにしかけ絵本が壊れることは、絵本の宿命。
─── 日本の子ども達もカーターさんのポップアップが大好きで、すごく楽しんでいますよ。
それは、もう本当にエキサイティングです!
僕は自分のことをエンターテイナーだと思っているんですね。日本の子ども達が僕の本を面白がってくれてることは、エンターテイナーとしてすごく嬉しいです。
僕の本は世界各国で出版されていますが、日本の出版社である、大日本絵画さんは、おそらく、世界中のどの出版社よりも出版してくれています。
僕の本がはじめて日本で翻訳されたのは25年も前ですが、その話を聞いたときの興奮は、今でも忘れられません。
─── ただ、ポップアップの本は、精巧すぎて、子どもが触っていると親はヒヤヒヤして、すぐに「乱暴に扱うのはやめなさい」って止めに入りたくなってしまうんですが…。
分かります! 僕にも娘がいて、同じような経験がありますから。
我が家には僕のコレクションも含めて、沢山のしかけ絵本があるんですが、娘が小さい頃、それで遊んでいたんです。僕は、とっさに彼女をそのまま遊ばせるべきか、しかけ絵本を取り上げてしまうべきか、悩みました。でも、娘が本を破ってしまうのは、別に壊そうと思っているわけでなく、ポップアップの仕組みを理解していないだけだって思って、そのまま自由にさせていました。
すると次第に、僕は娘が本を壊さないように扱うことを学んでいっていることに気づいたんです。
僕は子どもがしかけ絵本から、物の扱い方を学ぶことは、絵本にとってもすごく価値のある使われ方だと思うんです。小さな子どもが本と触れ合うことで、指の発達をうながすこともできる。たとえその本がだめになったとしても、それは紙の宿命です。僕の本も何冊も犠牲になりましたが…(笑)。
本を使って学んで、本の扱い方を覚えてほしいです。子ども達にはどんどん、しかけ絵本で遊んでほしいと思います。
─── 今後の作品について是非教えていただきたいのですが…。
「むしむし」の新シリーズとして、女の子用の "Princess Bugs(原題)"と 男の子用の" Builder Bugs(原題)"を思索中です。アイデアは色々あるのですが、今までと全くタイプの違う、新しい本を作ろうと思っています。
あとは、彫刻の本のアイデアも膨らませていますが…これが実現するまでには、あと2,3年はかかるかな(笑)。アイデアを少し見せましょうか。
─── うわー!(一同感嘆の声)
ありがとうございました! すごいの見ちゃった(笑)
最後に、日本のファンにメッセージをお願い致します。
そうですね。いつも、僕の作品を楽しんでくれてありがとうございます。
そして、"tickle your mind."( あなたの心をくすぐってください!)
僕はこのフレーズが好きで、使っているのですが、テレビをみたりパソコンをするのもいいけれど、それよりも、この本があなたの心をくすぐって、心からあなたが楽しんでくれればと思います。
カーターさんのお話しを伺って、しかけ絵本のことがより深く分かって、一層興味がわきますね。
さて、そんなしかけ絵本の日本で唯一の専門店が、鎌倉にあるというのです。
そこにはしかけ絵本のオススメ作品がたくさんある、と聞いて、『メッゲンドルファー』という不思議な名前のそのお店に取材に行くことにしましたよ!(【メッゲンドルファー探訪記】へ続く)