「ウィル少年には、素質があります。わたしは彼を引き受けます」 15歳の孤児、ウィルの前にあらわれたのは、緑と灰色のまだら模様のマントに身をつつんだ不気味な男。「レンジャー」と呼ばれる人間だった。 アラルエン王国で身分の高い人々の信頼厚く、一般の人たちからは「魔法を使う」と恐れられているレンジャー。当初はウィルも恐れを抱きますが、だんだんこの男が、独自の技を持ち、王国のために動いていることがわかってきます。男の名は、ホールト。伝説のレンジャーと呼ばれる人物でした。 噂ほど大男でもなく、白髪まじりのヒゲをはやし、仏頂面で、馬の世話から料理まで何でもひととおりこなすホールトが、「あの伝説のホールト」だと信じられないながら、弟子となったウィルはホールトから様々なことを教えられ、訓練の中で身に付けていきます。
人気ファンタジー「アラルエン戦記」シリーズ第一弾。ジョン・フラガナンが当時12歳だった息子のために書き始めた物語。国のインテリジェンス(情報)を担う「レンジャー」の見習い少年を描いたシリーズは人気を博し、オーストラリア国内外の賞を受賞しています。
小柄ですばしっこく好奇心旺盛なウィル。冒頭では、戦闘学校に入学したいと申し出ますが、「小さすぎる」と却下されます。みじめなウィルが、厳しくも愛情深いホールトと暮らすことで自らの才能をみがいていく様がわくわくするほど面白いです。最初にウィルの素質が描かれる場面……月明かりの中、木々がそよぐ動きや雲の動きにあわせて周囲の影に溶け込みながら、誰にも見とがめられずに広々とした城の庭を進んでいく描写は圧巻です。
第一巻のみどころは、まずなんといっても「レンジャー」の技能の数々。レンジャーの武器である弓矢や投げナイフ、大事な相棒となる小型の馬、ダグとの信頼関係。あたりを注意深く観察し、読み取り、追跡をするすべなど、ホールトから学ぶのは全身すべての機能をくまなく働かせて情報をキャッチする特別な技であり、師匠ホールトの深い魅力が際立ちます。
また孤児院の仲間……ウィルとけんかばかりしていた、戦闘学校に入ったホラスをはじめ、外交官見習いとなったアリスや、城のキッチンで働くジェニーたちがそれぞれ別々の道を歩き出します。念願の戦闘学校に入ったにもかかわらず、上級生の厳しいいじめに遭い疲弊していくホラス。このシリーズが続く中で、持ち前の剣術センスと素直な性格で、次第にウィルの大事な友人になっていくホラスとの関係も見どころです。
第二巻『炎橋』、第三巻『氷賊』と物語は展開していきます。巻が進むに連れて、王国に隣接する地域へと世界は広がります。 レンジャーの弟子となったウィルの成長物語。旅につぐ旅、放たれた刺客と15年前の記憶――アラルエン王国の運命をにぎる、技の巨匠と少年たちの熱い日々がはじまります!
(大和田佳世 絵本ナビライター)
アラルエン王国の孤児・ウィルは15歳でレンジャーの師に弟子入りする。仲間との友情を育みながら、この世界での居場所を築いてゆく物語。少年たちの熱き修行の日々が始まる!
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