20世紀アメリカを代表する画家のひとり、ベン・シャーンが描いた第五福竜丸事件の連作を元に、詩人・アーサー・ビナードさんが構成、文を書いて絵本にした作品です。印象的なモノクロの港や人の姿、カラーでダイナミックに描かれた空、街の風景など一枚一枚の絵に力があります。
みなさんは第五福竜丸を知っているでしょうか。1954年3月1日、日本の遠洋マグロ漁船の第五福竜丸が、マーシャル諸島のビキニ環礁で操業中、アメリカによる水爆実験で被曝しました。乗組員は23人。静岡県の焼津港を出港後、大平海を南下してマグロの群れに会い、ちょうど漁をしていたところでした。突然、空が真っ赤に燃え、爆音。そして降り注いでくる真っ白なものに人も船体も覆われます。それは広島で爆発した原子力爆弾以上の、爆弾の「死の灰」で……。
具合が悪くなった船員たちはなんとか自力で2週間後に故郷に辿り着き、入院。しかし体は良くなりません。ベン・シャーンは、船員のなかで第五福竜丸の無線長だった久保山さんの姿を描きます。娘を抱く姿、ベッドに横たわる姿。史実であるだけに内容は重いものですが、それだけに読む価値がある絵本です。
アーサー・ビナードさんは、“家”という言葉で、故郷、船、海、そして私たちの生きる世界を表します。急激に悪化していく自らの体を久保山さんがどう思っていたのかわかりません。しかしベン・シャーンの線から、絵から、読者それぞれが、悲しみの重さを想像することはできるかもしれません。人間の愚かさも悲しみも、本来の生の美しさも、絵本は訴えかけてくるようです。
未だ核は世界中にあり、核のない世界は実現していません。人間が“原子力”というエネルギーを扱うことによって、“家”にどんなことが起こりうるのか……考えたくなります。小学校高学年以上の子どもたちにぜひ一度手にとってほしい絵本です。装丁・デザインは和田誠さん。アートとしても見応えがある、2006年刊行の日本絵本賞受賞作です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
アーサー・ビナートさんの文は、ストレートで
本当に心を打ちます。
そして強いメッセージをベン・シャーン氏の絵から
感じる事ができます。
平和について考えるために是非高学年位に
読み聞かせたい本だと思います。
6年生に読んだところ、はじめはちょっとざわついて
いましたが最後にはシーンとして聞いていました。
核の問題としてだけでなく地球全体の単位で考える事の
大切さを教えるのにもオススメです。 (ぶらいすさん 40代・ママ 女の子11歳)
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