テレビの台頭とともに、街角で見かけることのなくなった、紙しばい屋さん。長い年月をへて、もう一仕事しようと、おじいさんは自転車で山をおり、町へ出ていきました。そして拍子木をカチーンと打ちならして、声をはりあげました。「さあ、みなさん、こっちにいらっしゃーい! 紙しばい屋さんが来ましたよー!」カチーン、カチーン!
時代とともに、変わってゆくものと、変わらないもの。横浜で生まれ、16歳でアメリカに渡ったコルデコット賞受賞作家アレン・セイが、透明感あふれる絵で情感ゆたかにえがく、ひとりの紙しばい屋さんの物語。
アレン・セイは、日本生まれの日系アメリカ人作家・イラストレーターで、本名はジェームズ・アレン・コウイチ・モリワキ・セイイ。
James Allen Koichi Moriwaki Seii
現在はオレゴン州ポートランド在住なのですが、何と、1939年神奈川県横浜市生まれなのです。
日系アメリカ人の母(正しくは帰国子女)と、韓国人の父の間に生まれ、8歳の時に両親が離婚し父親にひきとられています。
12歳の時に青山学院へ通うために母方の祖母と東京都に住むものの、すぐに祖母と同意の上で別れて暮らしたのですが、一人暮らしを始めた時、漫画家野呂新平の弟子となったのです。
何と言っても、そんな経歴の彼が、1994年に「おじいさんの旅」でコールデコット賞を受賞しているというのは、嬉しくもあり、正直驚きでもあります。
この作品は、16歳にアメリカに渡り、35歳になって初めて絵本を出版した時に、次回作を紙芝居をテーマにしようと思い立ったことが起源となっています。
その時は、まだ、紙芝居の絵本を描いてもアメリカで受け入れられないと思ったというから、奥の深い話です。
それから、32年が経過し、アメリカでも日本文化が浸透したので、アメリカの読者にも理解して貰えるだろうと期待して手がけた作品とのこと。
そんな背景を知ると、この絵本の良さが分かります。
アレン・セイは、正しく紙芝居をリアルタイムで経験しているからこそ、この作品が描けたのです。
物語は、ある山間のおじいさんとおばあさんが、寛いでいるシーンから始まります。
おじいさんが久しぶりに仕事(紙芝居屋)をするために、山を降りて町に向かいますが、町は大きく変貌しているのです。
都会の喧騒を疎んじて、一人、紙芝居の想いにふけるのですが、その時代を感じさせるシーンが何とも言えません。
人物の設定も良いし、紙芝居が衰退する時代の変化の描き方も絶妙です。
エンディングも納得できるもの。
日本の良き文化を堪能できる作品です。
私自身は、紙芝居を見たことがありません。
この作品を読むと、紙芝居という日本文化を、後世に残していきたい、残していかないとならないと強く思うようになりました。
無くなって良いもの、決して無くしてはならないものがありますが、紙芝居は後者に属する文化であることに間違いありません。
作品全体としては、良い出来だと思うのですが、気になった点が2つあります。
1つ目は、山を降りたら町が大都会と化しているということ。
いくら地方都市だとしても、この設定はあり得ません。
2つ目は、物思いにふけったおじいさんの前に突如現れた聴衆たち。
ストーリーの繋ぎが、飛躍し過ぎの感がどうしても馴染めませんでした。
とは言え、是非大人の人に読んで貰いたい作品としてオススメします。 (ジュンイチさん 40代・パパ 男の子12歳、男の子6歳)
|