「ただいまー」とぼくが帰ってくると、家はがらんとしています。ランドセルを置いて土間を通り抜け外に出ると「ンモー メエーヘヘヘ メエーヘヘヘ コーコココココ」 牛やにわとり、羊たちの鳴き声。「とうちゃーん かあちゃーん」と山に叫べば「おおーっ かえったかー それじゃあ羊をなあ ちょっと上の草場にうつしといてくれやーー」と叫び返されます。ぼくは羊を追って草場へ。山の集落で、ぼくは家族とたくさんの動物と暮らしているのです。
ある日食卓で父ちゃんが「来年にゃあ あの羊の毛で こんどは おまえのセーターつくれるな」とぼくに言いました。にいちゃんの次は、ぼくのセーターの番! 自給自足の暮らしの中でセーター作りはどんなに貴重なものでしょう。春の青々とした草、夏はお蚕さん、秋は干し柿、冬はあたたかそうな毛に包まれた羊を眺めながら、一年中、ずーっとぼくは待ち遠しいセーターのことを考えるのです!
絵本作家・飯野和好さんが自らの少年時代を描いた絵本。これまでもいくつかそうした作品は描かれていますが、個人的に本書はひときわ傑作だと思います。四季のめぐりと密接な少年の幸福感がこれほど香り豊かに描き込まれている日本の現代創作絵本はなかなかありません。
埼玉県秩父郡長瀞町の山間、3軒しかない集落生まれの作者にとって、育てた羊の毛を春に刈り、編んでもらった新しいセーターは、忘れられない嬉しさだったことでしょう。でもそれは家畜の世話を当たり前に担って、勝ち得たものなのです。最後に登場するセピア色の写真の中で、誇らしそうなこと! 羊から、お山からもらったものを飯野少年は忘れません。とっても気の長いおはなしだけど、だからこそぎゅっと本物の生き物のにおいが詰まっている。のびのび、もこもこ、むくむくと育つ毛や草のように、生きる喜びが湧いてくる絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
秩父の山間のたった3軒だけの集落で育った著者が、その子どものころの思い出を描いた絵本。畑を耕し、牛や鶏を飼い、自家製のお茶まで作る自給自足の生活の中で、育てた羊の毛で作ってもらうセーターを心待ちに過ごした1年を四季のめぐりとともに描きます。自然の息吹までが感じられる山の風景と、その山につつまれて、たくましく暮らす家族の姿には、たんなるノスタルジーをこえた、溌剌として生きることの喜びがあふれています。
作家の飯野さんは、とても素敵な日常を過ごしていたのですね。
みんなで助け合って仕事をして、家で飼っている羊の毛でできたセーターを着て、とても温かな毎日です。
現代の子どもさんたちでこのような日常を経験した子は、どれくらいいるのでしょう。
きっとたぶん、いませんね。
いたとしても、数人でしょうね。
(めむたんさん 40代・ママ 男の子21歳)
|