古い百人一首の箱から、「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに」のふだが消えてしまった。対となる「やくやもしおの身もこがれつつ」のふだが、「来ぬ人を」のところへとお祈りすると、なんと貴族の女の子の姿になって、百人一首成立の時代にタイムスリップ! そこで出会ったのは、百人一首をえらんだ、あの藤原定家と、その孫の為氏だった。定家に弟子入りし、「もしお」と呼ばれることになった女の子は、「来ぬ人を」をさがしながら、のちに百人一首とよばれることになる色紙が書かれるその空間に立会い、王朝文化のかがやきをとどめようとした定家の思いにふれていく。いつしか為氏との間に淡い思いもめばえて……?
過去と現代を行き来するドキドキの展開と軽やかな筆致で、和歌、物語、歌仙絵といった古典文化、貴族から武家の世へとうつりゆく転換期の歴史にも興味と親しみが湧く。歴史をたくみに織り込んだ児童文学で知られる著者の新境地となる、百人一首がぐっと面白くなる古典文学ファンタジー!
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