お釈迦さまの舎利(遺骨のこと)が欲しくてたまらず、千年の時を越えて現れた鬼と、それをとらえる守護神、韋駄天の因縁の対決を描いた能の舞台を絵本化。「能のえほん」シリーズは、シリーズ6冊になり、全巻、観世流能楽師で、世界を舞台に活躍する片山清司氏が文章を担当しています。
お釈迦様がお亡くなりになった後、お骨(舎利)をみんなが欲しがったので、お骨は小さく分けられた。その1つを盗んだ足の速い鬼を、韋駄天が追いかけて捕まえた。それから千年以上が経ち、日本のお寺の収められたお骨を、またも鬼が盗んだ。その顛末は…
お釈迦様を熱烈にお慕い申し上げる鬼の、切ない再犯の物語。2度も懲らしめられたが、きっと3度目があるのではないかと思った。熱狂的なファンの、常軌を逸した行動を連想し、仏教業界も現在の芸能界・スポーツ業界なども、ファンが犯罪行為に及ぶ事もあるが、「愛する存在と一緒にいたい」という強烈な気持ちを合法的に表現できなかったのかと、残念に思う。
とは言え、この絵本はしっとりとした日本画の上品な雰囲気と同時に、ユーモアを感じる。細かく書き込んである部分と、大胆に省略してある部分の工夫が、画面に奥行きを創り出し、途方もない話を見事に演出している。
台詞や文章は短いのだが、登場人物が極端な性質を持っているように思えてしかたがない。言うことやることが極端なのでで、それぞれの人物の背景をあれこれ想像して、勝手に一人でツッコんで楽しめる。
巻末に、観世流能楽師の方のあとがきがあるので、安心だ。
2度もボコボコに懲らしめられた鬼が、きちんと更生できるように、神様仏様にお祈りしたお坊さんの、心の温かさが染みる。
再犯を繰り返さないよう、読者の私も祈るばかりだ。人間でなくても、人間臭い鬼と韋駄天。人間なのに妙に生々しさがない主人公のお坊さん。キャラクター設定が絶妙だ。 (渡”邉恵’里’さん 30代・その他の方 )
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