きょうは大事な日なのに、楽しみにしていた水族館に行けなくなってしまった女の子の「カイ」。「パパもママもおしごとだって。つまんない」 カイが地面を蹴飛ばすと、グラグラグラッと足元が揺れ、大きくて黒光りするクジラがあらわれます。「ぼくはアメツチクジラ。大地のクジラさ」「ぼくたちのすむ世界へつれていってあげる」と、カイをのせ地面の中へ……。
そこにはきらきら光る宝石でできたような海が広がっていました。ホタル石のクラゲ。ヒスイとトルコ石のトビウオ。サンゴの水晶や、カンランセキの回遊魚たち……。下へ、下へと深くもぐっていくうちに、だんだん光は減ってとうとう真っ暗闇に。そしてカイの懐かしい記憶をよび起こす音が聞こえてきます……。
『ちっちゃなてんし』『ゆきのあかちゃん』(共にアリス館)などやさしい色彩で、かわいらしい世界を描く宮田ともみさん。今作では少し変わって、大地や海や鉱石をイメージさせる青、藍色、緑などの深い色あいが印象的。きっと本書を手にする子どもたちは、カイとアメツチクジラと共に冒険するような気持ちで、美しい絵に引き込まれるでしょう。
大切に見守られ、誕生したときのことって、誰もが自分では覚えていないけれど、この世の誰かの記憶に残っているはず……。誕生の瞬間と、大地からの祝福に思いをめぐらせ、あたたかい気持ちになる絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
誕生日に、お父さんとお母さんがお仕事で水族館に行けなくなってしまった「カイ」が、地面をけると、地中から大きなクジラが現れて、カイを地中の世界につれていってくれます。さまざまな宝石の魚たち、そして大きな大きなオオクジラ。そしてカイは、自分が生まれた時の記憶を、魚たちから教えてもらいます。
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