フェリシモ出版の「おはなしのたからばこ」シリーズ18巻は、日本の昔話『絵すがた女房』。 ごんべえさんの女房おはなは、いつも見ていたくなるほどのかわいい人。ぱっちり大きな瞳に、長いまつげ。笑うとほっぺたに、えくぼがぺこり。ごんべえさんは、何をするときもおはなから目がはなせないので、着物はしみだらけ、畑もすっかりほったらかしになってしまいました。 これでは畑がかわいそうと、おはなはごんべえさんに、自分の絵すがたを描かせて、それを持たせて畑仕事に行かせました。 ところが、絵すがたは風に飛ばされて、思わぬ人に拾われてしまいます。 そうして、おはなは、お殿様のそばへ行かなければならないことに。涙の別れをするごんべえさんとおはな。ふたりの運命は…。
二宮由紀子さんによる語りは、テンポよく笑いをさそいます。ごんべえさんのだめっぷりが、本当に愉快ですね。 表情豊かなイラストに定評のある石井聖岳さん描くおはなは、素朴でキュート。ごんべえさんやお殿様がほれこんでしまう気持ちもわかります。 笑いに笑って、最後もすてきなハッピーエンド。清々しい笑い話をお楽しみください。
(長安さほ 編集者・ライター)
仕事に手がつかなくなり、恋女房がにっこりしてくれることなら、なんでもしてしまう、おばかでかわいらしい 男の人ばかりが出てくるお話。これまで刊行されてきた絵本では、殿様の横暴さ、幸せに暮らしていたのに 別れさせられる夫婦の悲しさを主調にしているものが多かったのですが、本作は違います。ユーモラスで のびのびとした石井さんの絵、人間っておかしいねと、お茶目に語りかけてくる二宮さんの文章が楽しくて、 にこにこ。わがままな殿様ですから、なんだか愛らしく見えてきて……。しっかり者で知恵者でもある おはなさんがいれば、お城もしもじもの暮らしも大丈夫ですね。
『えすがたなえさま』、『えすがたよめさま』、ルーツは同じようですが、絵本によってそれぞれにアレンジが違って、それぞれに楽しめるのですが、魅力的なのは寝ても覚めてもそばにいるだけでたまらない恋女房がいること。
それぞれに話に微妙な違いがありますが、何より興味があるのは描く作家の理想のよめさま像。
梅田俊作さん、石倉欣二さんと自分に親しみのあるかつての美人像を楽しんできた自分には、石井聖岳さんの描くのがどう見ても現代的なかわいこちゃん。
おめめぱっちり、まつ毛は長く…。
こんべえは仕事も手につかないほどに、かわいいおよめさんのおはなにメロメロなのです。
このお話は、夫婦像にも現代的なところを取り入れています。
『えすがたあねさま』では、ご主人はよめさまから尽くされる存在、あねさまが自分の絵を描いていたのに対して、このお話ではごんべえが何枚も描きなおしてはおはなの絵を描きます。
よめさまが夫に尽くした時代から、友だちのように、あるいはご主人がよめさまに尽くす時代に変わってきました。
おはなは自分のだんなをごんべえと呼び捨て。
もう一歩進めば、「おはなっち」「ごんぴー」などとじゃれ合う世界ではないか。
この絵本の卓越しているところはもう一つ。
殿様なんてたいしたことしているわけじゃないから、入れ替わっても問題ないと言い切った「年取った賢いけらい(家老でしょう)」の名言。
首相がころころ変わっても、たいしたことではない…なんて、すごい言い方ですよ。
国民はその殿様のために困っているのに…。
何はなくても、可愛いよめさまがいる生活とは、どんなに楽しい話でしょう。
我が家にもそんな時代があったのですよ。 (ヒラP21さん 50代・パパ 男の子14歳)
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