フェリシモ出版の「おはなしのたからばこ」シリーズ16巻は、グリム童話『ラプンツェル』。
ディズニーのプリンセス映画にもなったグリム童話の名作が、艶やかな雰囲気漂う大人の絵本になりました。 魔女との契約によって、生まれた瞬間から魔女に連れ去られ、入り口も階段もない塔に閉じ込められた美女・ラプンツェル。外の世界に憧れながらも、ただひとり、塔の上で暮らしていました。 ある日、ラプンツェルの歌声を聴いた王子がその声に心を奪われ、ついに王子とラプンツェルは出会って―――
青々と生い茂るラプンツェルを食べたい妻の欲望、妻を救いたくて罪を犯す夫の業、麗しいラプンツェルを独り占めにしたい魔女の欲望……業と欲望にまみれたそれぞれの感情を含ませながらも静かに物語が流れていくのは、滑らかに描かれた美しい絵の力がそうさせているのでしょう。 人を愛すること、そして愛する人を求めることについて、改めて問いかけてくれる一冊です。
(洪愛舜 編集者・ライター)
魔女に育てられたラプンツェルは、魔女の他、誰も知りませんでした。森の奥の高い塔の中でいつもひとりでした。 塔には、窓も扉もありませんでした。ところがある日、ラプンツェルは王子に出会い、恋に落ちたのです。 それを知った魔女は――。ラプンツェル、王子、魔女、それぞれが孤独で、それぞれが愛を渇望している姿は 亭獰猛ですらある――そこを描きたかったという内田也哉子さん。水口理恵子さんの描く世にも美しい ラプンツェルの姿には息をのむことでしょう。宇野亜喜良さんのアートディレクションと共に3者が奏でる音楽のようです。 静かな緊張感をもって完成された、上質な品格を感じる絵本です。
『ラプンツェル』は、グリムのお話として息子は小学校低学年かそれ以前に知っていたお話です。
「ラプンツェル、ラプンツェル、その髪を下しておくれ」
魔女のこの言葉だけが耳に残っているのですが、私にとっては初めての対面です。
それにしても内田也哉子さんの作品を読んでびっくりしました。
内田版『ラプンツェル』は恋をテーマにした、ヤングアダルト感覚の童話です。
図書館のグリム童話集の訳をいくつか読み比べた時に、内田さんの脚色のすごさを痛感しました。
さらりと語ってしまうと、魔女の庭にある野菜のラプンツェルに魅せられた妊婦が、夫に頼んでそのラプンツェルを取り行かせたところが魔女に見つかってしまうくだり、ラプンツェルと引き換えに生まれてくる子どもを魔女に差し出すことになってしまうくだり、魔女に引き取られ閉じ込められた娘ラプンツェルが通りかかった王子と恋仲になるくだりといくつかのパートが重ねられていくのですが、それだけならば今までに手にした童話にも近い展開はあったかと思います。
魔女、王子、かわいそうなお姫様という登場人物も童話にはあふれているかと思います。
それが、内田さんの手にして、情感表現に深みを持たせたときに、生々しいお話に変わっていくのでした。
イラストレーターの水口理恵子さんの絵も情感たっぷりで、ラプンツェルを肉感的に表現している感じ。
この絵本は、高学年から大人に向けての絵本になっているかと思います。
そういえば、水口さんの絵に親しみを覚えたと思ったら、東野圭吾の小説やいろいろな書籍のカバーで書店の平台を飾っている人だったのですね。
グリム童話を超えた絵本です。 (ヒラP21さん 50代・パパ 男の子14歳)
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