世界的バイオリニスト、パオロは決してモーツァルトを演奏しない。その理由は、ナチス強制収容所の悲劇とつながっていた。音楽を武器に戦争を生き抜いた人々を描く。
『モーツァルトはおことわり』のタイトルから、わがままな少女や頑固な老人が、モーツァルトの音楽をきっかけとした騒動を起こす楽しい話を思い浮かべました。表紙も青を基調とした美しい風景が描かれ、前の見返しも後ろの見返しも街の美しい朝日と夕日が描かれていたので、なおさらでした。しかし、実際は楽しいなどとは言っていられない物語だったのです。
物語は、新米の記者が上司の代わりに、気難しいバイオリニスト、パオロ・レヴィ氏のインタビューをすることになった場面から始まります。そして、理由がわからないまま、インタビューするときの注意事項として、「モーツアルトの件についての質問をしないこと」「プライベートな話題もダメ」と上司からきつく言い渡されるのです。
しかし、いざインタビューを始めるというときに、パオロ・レヴィをまえにした記者は混乱してしまい、「モーツアルトの件についての質問だけはいたしません。」と言ってしまったのです。記者は「出て行け!」といわれることを覚悟しましたが、意外にもレヴィ氏から話を始めたのでした。
ときには心を和ませ、ときには元気な気持ちにさせてくれる音楽が、ナチス・ドイツ時代に、そんな怖ろしくも惨いことのために利用されていたことを知る人は少ないのではないでしょうか。そして、その音楽を演奏しなければならなかった人たちの苦しさを、私には想像することができません。ただただ、今後、音楽がこのような使われ方をしないよう願うばかりです。
この本には、ナチス・ドイツの惨たらしい行為が描かれてはいますが、
私たち読者に希望を与えてくれます。読み終えたあとに見る表紙や見返しの絵が美しさは、より一層、その美しさを増したように思えます。
裏表紙に描かれたユダヤ人の人たちも一緒に、ヴェニスの街の美しさを味わうことができる世の中にしたいですね。 (はしのさん 40代・パパ 男の子15歳、女の子13歳)
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