自然がたっぷりあったころの熊本のいなか町を舞台に、少年たちの自由でのびのびした生活とできごとを描いた短編集。
今まで読んできた丘修三さんの本が、弱者に向ける思いやりにポイントを置いた作品に集中していたので、のびのび感がとても新鮮に感じられた本です。
昭和も高度成長時代を迎える前の熊本県の田舎町が舞台。
自由奔放に生活する少年たちを描いていて、感じたのは丘さん自身が熊本で過ごした少年時代をベースにしているのだなということです。
とても自然体で描かれた4編の短編の中に、少年の残酷さとたくましさと興味があふれています。
女郎蜘蛛に闘わせるときの少年の残酷さ。
足の不自由なヤスシは弱者を自分に重ねてか、傷ついた女郎蜘蛛を可哀そうに思うのですが、他の少年たちには闘いの道具であり、敗者は無残にも踏みつぶされてしまいそうになります。
ヤスシのお姉さんまでが残酷さを持ち合わせているところに怖さを感じたのですが、この本はいじめについて書いているわけではありません。
水遊びをする川淵にあるヘビやなぎ。
木に登ってどの枝から水面に飛びこめるかを競う少年たちは、飛び込めないユキ彦を馬鹿にして置き去りにして帰ってしまいます。
屈辱感をもったユキは一人で練習をしていて、溺れて死んでしまう。
少年たちの残酷がそこにあるのですが、いじめという感覚ではありません。
用水路で見かけた紅鯉を信じてもらえない僕。
信じてもらえないことの不安感と、本当だとわかった時の解放感。
子どもの心の振幅が描かれています。
家族から離れ、川辺で魚を取って生活しているおじいさんと、メジロ捕り魅せられている少年たちとの関わり。そしておじいさんの死。少年は夢から覚めたように捕えたメジロを解放します。
死と生を取り交ぜ、掌編ながら丘さんの語りが響いて来る4編でした。 (ヒラP21さん 50代・パパ 男の子14歳)
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