「なつのあさ」は、谷内こうたさんのデビュー当時の作品の一つです。
絵は、素人目には最初に稚拙な印象を与えますが、読み返しているうちに、魅力を感じてくる絵本です。
ほぼ全頁に短い文章が添えられているのですが、1枚だけ、文章のない絵があります。
読み聞かせの時は、この空白の頁の余韻を、どうやって子どもに伝えるのかが難しく、そして面白いです。
「しーーーん」なんて、ストレートに言うのもいいのかもしれません。
谷内さんは、1947年生まれ。ずっとフランスに在住されていましたが、2019年7月、71歳で亡くなってしまいました。
まだまだお若いのに残念です。
約30年前、「いわさきちひろ美術館」で開催されていた特別展で存在を知って以来、谷内さんは、私が一番好きな絵本作家の一人です。
谷内こうたさんは、叔父で画家の谷内六郎さんの勧めで、絵描きの道に入ったということです。
ちなみに、この谷内六郎さんは、週刊新潮の創刊号から、25年間に渡って表紙を描き続けた人。
昭和56年に急逝されてしまって、その掲載は途切れることになりましたが、今も、評価が高い画家です。
50歳を超えた私が子どもの頃、テレビで流れていた週刊新潮のコマーシャル。
「週刊新潮は、あした発売になりまーす」という子どもの声のナレーションが印象的でしたが、あの頃にテレビで映されていた表紙も、谷内六郎さんの描いた表紙だったのです。
お二人の谷内さんの絵には、奥底に共通するものを感じます。
閑話休題。
谷内こうたさんには20冊以上の絵本の著作があって、日本以外でも、フランス、イギリス、ドイツなど8カ国以上で出版されています。
しかし、谷内さんの著作は、一部を除いて、日本ではそれほど売れていないようで、多くの絵本が休版(現実的には絶版状態)という残念な現状があります。
「なつのあさ」はその一部の例外で、比較的売れていて、手に入りやすい絵本です。
初夏の午前中、爽やかな気持ちで子どもに読み聞かせるのもよし。
夜寝る前に夢の世界へ誘うように子ども達に読み聞かせるのもよし。
さわやかな心地よい絵本です。