昭和40年生まれの私が子供の頃は、戦争や原爆をテーマにした優れた児童文学がたくさんありました。
「ふたりのイーダ」「あるハンノキの話」「8月がくるたびに」など...。
テレビでも、朝ドラで「藍より青く」「鳩子の海」など、戦時中の時代設定のものが多くありましたが、近年は8月6日当日になっても新聞のテレビ欄は通常の番組のままです。
それは当たり前のことで、作り手の方に「体験」のある世代がもう居ないわけです。
しかしこの作品の著者である朽木さんは、そこを「戦後生まれの私」が見聞きした広島という視点で、原爆を知らない世代にもすんなり受け取れる鮮やかな物語を紡ぎだしました。
直接、業火に人が焼かれる場面や、やけどの皮膚に虫が湧くような酷い描写はありません。
でも残された人たちの、後悔や悔しさから深い悲しみがちゃんと受け取れます。
冒頭の「あなたは幾つ?」と知らない老婦人に急にまっすぐに問われる場面、そしてお母さんの「……誰かを捜しとる人が広島には今でも、えっと(たくさん)おられるからねえ」という言葉には、ぐいっと魂を掴まれた気がして、そこから一気に読み、またこれをきっかけに人生で1度は広島に行かねば、と思い立ち、小4?20歳の子3人を連れて家族修学旅行へも行ってきました。
主に中学生向けかとは思いますが、難しい漢字には初出に必ず振りがながある(これはとても大事なことです)ので、小学校高学年から読めると思います。主人公の希美が6年生の夏から始まるので、親近感を持つのではないでしょうか。
6年生の朝自習で本の紹介だけして、中学校に上がったら図書室にあるので手に取ってみてください、とお話しました。