「ウェン王子とトラ」がつとに有名なチェン・ジャンホンの作品。
2004年の作品で2008年の邦訳ですから、実は「ウェン王子とトラ」の1年前の作品ということになります。
あの名作の作者の作品なので、期待をもって読みましが、結論からいくと期待通りです。
チェン・ジャンホンは、中国生まれでパリ在中。
今回の作品の主人公あるハン・ガンは、1200年前以上の中国に実在した画家ですが、この作品は、ハン・ガンと同じ手法で絹地に墨と絵の具でかいたものです。
ハン・ガンは素晴らしい馬の絵で知られていますが、この作品はそれを題材に創作したもの。
ハン・ガンの描く馬の絵は、あまりに生き生きしているんので、生きて絵から飛び出すという噂がありました。
1人の武将が、その噂を聞き、戦のためにこの世で一番、気性が激しく勇敢で力の強い馬を描いてくれと頼みます。
そして、何と馬は絵から飛び出し戦に臨むことになるのです。
絵から生きた馬が飛び出すという発想は、日本人に馴染むものなので、ここまでは予測できる内容です。
チェン・ジャンホンが凄いのは、ここから。
その馬が戦いの悲惨さを目の当たりにして、涙を流してからエンディングまでのストーリーは、心の琴線に触れるもの。
見開きで大きく描かれた馬が涙する絵は、圧倒的存在感があって、その悲しみの深さが手にとるように分かるものです。
良く構成されたストーリーに加えて、大型絵本の見開きのページを一面に使用した躍動感溢れる絵は、正に絵本の醍醐味と呼ぶに相応しいもの。
年長への読み聞かせ、あるいは、小学校低学年生が読んで欲しい一冊です。
こうした心に残る作品はなかなか出せないものだと思いますが、チェン・ジャンホンの次回作が本当に待ち遠しいです。