寒い季節になると、読みたくなる童話があります。
それが、新美南吉の「手ぶくろを買いに」。
すっかりお話を覚えているわけではありませんが、雪で冷たくなった子ぎつねの手を心配してお母さん狐は夜に人間の町にでかけていくお話です。
おぼろげながら、それでもまた読みたくなる童話。文字だけの童話として読んでもいいし、このように絵本として読むのもまたいい。
しかも、有名な作品だけにたくさんの絵本作家がその絵を描いています。
偕成社のこの絵本は、たくさんの絵本作家の中でも、その柔らかなタッチで人気の高い黒井健さんが絵を描いた一冊です。
黒井さんの絵のきつねの親子の姿の、なんとも暖かい感じはどうでしょう。
こんな姿を見ていると、このきつねたちが悪いきつねではないことがよくわかります。
それに、子ぎつねが手ぶくろを買いもとめる帽子屋さんのご主人もけっして母きつねが心配するような悪い人間には見えません。
この場面、お店の中を見通せる視線になっていて、商品として並んだ帽子もとっても暖かそうに描かれています。
あるいは、子ぎつねが一軒の家から聞こえる子守歌に耳を傾ける場面。
ここでは外に立ちどまる子ぎつねしか描かれていませんが、その家の窓のあかりがなんとも暖かいのです。
カーテンのかかった窓にはうっすらと、これは人間のお母さんでしょうか、その影も描かれています。
もちろん、新美南吉の童話は「ほんとうに人間はいいものかしら」という母ぎつねのつぶやきで終わる、ある深さをもった作品です。
それらも含めて、黒井さんの絵は暖かく包んでくれます。