「本書は絵本という体裁をとっていますが、決して子供のためだけに書かれた本ではありません。」
これは、この絵本『世界で最後の花』を訳した村上春樹さんが「訳者あとがき」に記した文章です。この文のあとに、こうあります。
「「大人のための寓話」とした方が、作者の真意はより正確に伝わるかもしれません。」
もし、この絵本を絵本だから子供が読むものを思わないで下さい。
むしろ、大人である読者こそ、手にして欲しい一冊あることは間違いありません。
この絵本が刊行された1939年はナチス・ドイツがポーランドに侵攻して第二次世界大戦が勃発した年です。
そんな時、「みなさんもごぞんじのように、第十二次世界大戦があり」という一文で始まる絵本が刊行されていたという事実に驚きます。
「第十二次世界大戦」。これは誤植ではありません。
この大戦によって、人類は滅亡寸前までいきます。
人間にはもう気力すら残っていません。
そんな世界で、一人の若い娘が「世界に残った最後の花」を見つけます。
唯一彼女の話を聞いてくれた若者と花を育てていきます。
二人は忘れていた「愛」を取り戻しました。
やがて、人間はまた生き生きと活動を始めます。
集団ができ、互いに主張を始めます。
そして、また…。
この絵本の冒頭に、作者のジェームズ・サーバーが娘ローズマリーに宛てた言葉が載っています。
「君の住む世界が、わたしの住む世界よりもっと善き場所になっていることをせつに願って」
私たちは彼の言葉にちゃんと答えられたのでしょうか。