1990年に発刊され、2011年8月に新版で出版されたドイツの絵本。
正直、衝撃的な絵本です。
読み終わった後、呆然としてしまいました。
何せ、20年も前の作品でありながら、原発の危険を明確に示し、自然エネルギーの活用を訴求しているのですから。
作者のグードルン・パウゼヴァングは、『みえない雲』という本を書いています。
この作品は、バイエルン州の原子力発電所で起こった架空の放射能漏れ事故を題材としたもので、2006年に映画化もされています。
ドイツだけでも150万部が発刊され、原発を推進する政治家や原子力業界の関係者にも読まれ、さらにドイツやベルギーの多くの学校で国語教材として用いられるようになったとのこと。
ドイツ国外においては、日本を含めた13カ国で翻訳されています。
批評家は、本と映画が、架空の内容であるのに実際の事故が元になっているという印象を与えかねないと非難し、原子力発電の推進派は、このような事故がドイツの原発で起こりうることにはっきりと異議を唱えたようです。
そのドイツでは、日本の原発事故を踏まえ、原発の完全廃止に向け舵を取ったのは、記憶に新しいところです。
そのグードルン・パウゼヴァングが、原発も含めた環境問題を題材に絵本にしたのが、この作品です。
空想での作品だからこそかも知れませんが、強烈なインパクトがあります。
物語は、擬人化した地球が、大人に警鐘を鳴らすシーンから始まります。
その時の一文に、
「わたしのどうぶつたちをころし、わたしをコンクリートづめにする。
そして地のそこからは、せっせと、石油は、鉄や、石炭をほりだす。
それでもたりずに、こんどは、原子炉をつくって、ねむっていた力をめざめさせてしまった。
あんな手のつけられないもの、つかいこなせるわけがないじゃない。
まったく、どうかしてるわ!」
とありました。
言葉にならないとは、このことと思えてしまいました。
でも、その警鐘に対して、大人は耳を貸しません。
それどころか、「子供達は、子供達で、何とかするさ」と言い放つ始末です。
そこで、地球は、子供達に同じように語りかけます。
すると、子供達は驚き、親に地球の危機を訴えるのですが、やはり聞き入れてくれないのです。
それから、少しメルヘンがかった展開があるのですが、地球の将来の危機に理解を示した大人達は、最後は子供達と一緒になって、環境の改善に邁進するのです。
それは、物質的には少し不便な生活なのですが、それこそが大事だと気づくのです。
最後に、原子炉は止められて、太陽発電や風力発電が登場するのですが、衝撃的なエンディングでした。
文章の端々に、環境問題に対する提言が盛り込まれています。
しかも、それが、原子力問題にまで触れているのですから、本当に是非とも多くの人に読んで欲しい作品です。
文章が長いので、小学校中学年以上の子供が、自ら読むのが良いと思います。
子供らに負の遺産を残さぬよう考える教材として、大人にも1度は読んで欲しい作品です。
しかし、この絵本が全く話題にならないのが、至極不思議です。
メディアも、原発の問題に対して、政府見解とか批評家の意見だけを流すだけでなく、こうしたドイツの書籍を紹介することも、大きな役目だと思えてなりません。