「とりあたま」とはよく言ったもんだ。この言葉を地で行く一家。この言葉をこんなに忠実に表現したお話は他にないでしょう。
何をするのかも、買い物の内容も、他人の名前も、用事を頼んだ方もその内容すら、全部「で、なんだっけ?」。
まるで、コントを見ているようなそんなおかしみのある作品。一緒に読んでいたうちの子供も、「…っておい!忘れすぎ!」とツッコんで楽しんでいた。そして「くまが売っている豆腐っておいしくなさそう」とも(笑)。細かい部分まで、子供にとっても、つっこみがいのある作品である。
でも、大人の私から見ると、イラストの素朴さが一種の狂気をうっすら孕んでいるような、ぎりぎりな感じの変な危うさも感じさせる。一家が全員大真面目にすべてを忘れていることに、その眼が一ミリもふざけていないことに心がなんだかざわつく。
今世の中で起こっているすべてを薄目で見ていたい。
「で、なんだっけ?」と猛スピードで忘れ去っていきたい、そんな願望が含まれているように感じるのは、今がとても恐ろしい毎日だからだろうか。
そういう意味では、今の時代の気分をとてもよく象徴している作品。