この国の人々とこのトラの距離は近い。住処が重なっているのかもしれないほどです。そしてお互いに憎み合っています。
去年、子供たちとお話を楽しむPTAクラブ「お話の会」の中で1・2年生にこの本の読み聞かせをしました。絵の迫力にも引き込まれ、話が進むにつれ、五十人がしんとして食い入るように見つめている中で最後のページになり、裏表紙を見せて表紙をもう一度見せて、それでも全員固まっているので「・・・ご清聴ありがとうございました」というとやっと我に帰って溜息が漏れました。
大人たちもトラも、憎しみや悲しみや愛を持ちあぐねて生きている所が何ともリアリティがあります。このトラが人間を襲うわけですが、元はと言えばトラの子供を人間が殺したからというのも人間の欲がなせる技。
私は最初図書館で読んだ時、果たしてこれを1年生に読んで理解してくれるだろうかと少し心配になりました。甘えん坊もいれば暴れん坊もいる普通の1年生です。
しかしその心配は私が子供たちを信用していなかっただけでした。子供たちはみんな、大人たちは心が揺れてはいろんなものを抱えている事がわかっているんでしょうね。そしてその中でウェン王子が凛々しく成長していく事に共感と希望を感じてくれたのだと思います。
普段接している子供たちも、大人を責めないだけで、ピュアではない私たち大人の社会を受け入れてくれてるんやなあ。大人になってもなんでも全部ちゃんと出来る人にはなれないけれども、誠意を持って物事に取り組むようにおばちゃんもがんばるわ。と、子供たちに向き合い直させてくれた一冊です。