まず大迫力の表紙に驚かされました。
人間に我が子を殺された母虎が村や人を襲うようになり、それを鎮めるために差し出されたウェン王子。
よく母犬が子猫の世話をする映像を見ることはありますが、まさか獰猛な虎にそんな一面があるとは思ってもみませんでした。ですが中国にはそんな伝説が残っているそうです。
動物の赤ちゃんもその小ささ可愛らしさを武器に身を守ると言います。小さきものを守りたい、大事にしたいと思う愛情は人も動物も変わらないものなのですね。
虎はウェン王子と暮らし、我が子への愛情を王子に注ぐことで、人に対する怒りや憎しみを忘れることが出来た。まるで本当の我が子のように慈しみ育てた。
それは虎にとって幸せなひとときであったことでしょう。
だからこそ、本当の母親が現れて命も顧みず王子に駆け寄った時、后の愛と王子の幸せを感じたのではないでしょうか。
ウェン王子は約束を守り、さらに驚くべきことに生まれた我が子をまた虎の元へ連れていきます。王子と虎の間にある愛情と信頼の深さに心打たれずにおれませんでした。
挿絵は迫力があると同時に細部まで丁寧に描かれ、水墨画の滲みを活かした描写が美しく、伝統と斬新さが見事に融合した作品だと思います。