病気で視力を失った男性は、それでも働くことを選び、白い杖を持って歩くことを練習し、
バスの乗降もなんとかこなし、少し離れた職場へと向かう。
それでもやはり不自由で、時にはバスに乗れないことも。
そんなある日、「バスが来ましたよ」と、一人の少女に声を掛けられる。
少女は男性が降りるバス停の近くの学校に通う小学生でした。
こうして、二人の交流ははじまりました。
しかし、やがて少女は学校を卒業していきます。
と、その子の妹がお姉ちゃんのあとを継いでくれたのです。
そうして何人もの子供たちが善意のバトンをつないでくれて、男性は定年まで働き続けました。
これは由美村嬉々さんが書いた『バスが来ましたよ』という絵本のあらすじ。
でも、これはひとつの事実をもとに書かれた絵本でもあります。
視力を失った男性自身が「あたたかな小さい手のリレー」という作文で「小さな助け合いの物語賞」に応募し、
受賞したものがベースになっています。
小さな記事を読み、いい話だと感じることはよくあります。
でも、そこから誘発されて、実際の舞台である和歌山まで足を運ぶ人は少ないでしょう。
由美村さんのこの絵本は、そういった一歩歩き出したところから始まっているといえます。
その一歩は、絵本の中の少女も同じだったでしょう。
「バスが来ましたよ」という一言は、少女にとって勇気の一歩だったのです。
絵を描いたのは、松本春野さん。
祖母はいわさきちひろさん。
絵のタッチは違いますが、やさしい色づかいに、あのいわさきちひろさんの絵を彷彿させます。
「バスが来ましたよ」、少女のかわいい声が聞こえてきそうな絵です。