福岡の最西部に位置する、糸島。
NHKの朝の連続テレビ小説(通称 朝ドラ)の第111作となる「おむすび」の舞台で、
自然豊かな糸島の風景を目にした人も多いはず。
その糸島を舞台にした児童文学があることを、
田村文さんの『いつか君に出会ってほしい本』で知った。
それが、歌人で作家でもある東(ひがし)直子さんの『いとの森の家』だった。
東さんはこの作品で、2016年に第31回坪田譲治文学賞を受賞している。
物語は福岡市内の団地から糸島に引っ越してきた小学4年の女の子、加奈子ちゃんが
糸島の自然とそれで暮らす人々との交流を描いたもの。
引っ越してまもなく、通学路一面に蛙の死骸が散乱して気分がわるくなる加奈子だが、
そのうちにオケラにも触れるし、ホタルの乱舞にうっとりとしたり、
豊かな自然のなかで生き生きとしている。
朝ドラ「おむすび」でも一面の田んぼや畑の中の道を自転車で走る主人公が描かれているが、
この物語の加奈子もそんな生活だったのだろう。
加奈子がそこで出会う人のなかに、死刑囚の慰問をしているハルおばあさんがいる。
ハルおばあさんがしていることを通じて、
加奈子は罪とか許しとか死とか命とかを考えることになる。
しかし、父親の転勤でやがて加奈子たち一家に糸島を去る日がやってくるのだ。
東さん自身が小学生の時に一年ほど糸島に住んだ体験をもとに書かれたこの物語は、
東さん自身の思い出がうまく合わさった、感動作だ。
ちなみに、田村文さんはこの物語を紹介するにあたり、
「命の重さに向き合う」と、タイトルをつけている。