中学受験に失敗したツヨシ。
父親とけんかして、ひっぱたかれて家を飛び出したツヨシ。
ツヨシの気持ちも、父親の気持ちも解るのですが、この話は信州の「無言館」に話をつなげることでとても雄大なテーマになりました。
春おばあさんが思いを寄せた男性は、召集令状を受取ってからの僅かな日々に春さんの姿を絵に描いて出兵していきます。
そして戦死。
描き遺しされたスケッチブックを受取った春さんは、後に「無言館」の絵に心打たれて信州に移り住んだのでした。
この物語は「無言館」の絵に心打たれた依田逸夫さんの感動から書かれていることが判ります。
「無言館」の絵画集、紹介された本で見た絵が、表現された言葉からはっきりと思い起こすことができます。
絵に対する思いを残したまま死んでいった若者たち。
物語の最後にこの物語の登場者が「無言館」で合流させたことで、依田さんは現代社会と戦争を結びつけたのです。
中学受験の失敗の痛みと、好きな女の子に対する思いと、そして戦没画家たちの無念と、その時代に残された人たちの思いを、ツヨシはしっかりと受け止めたと思います。
実際に「無言館」に関する書物を読むと、この本の重さがさらに大きくなると思います。
お薦め図書
1.『約束「無言館」への坂をのぼって』 窪島誠一郎著、アリス館、2010.
2.『「無言館」ものがたり』 窪島誠一郎著、講談社、1998
3.『「無言館」にいらっしゃい』 窪島誠一郎著、筑摩書房、2006