「古事記」にある海幸彦・山幸彦の話を題材にした能「玉井」(たまのい)。弟の山幸彦は、兄の海幸彦にお互いの道具を交換してみたいと申し入れ、つり道具を借りるが大事な釣り針をなくしてしまう。謝っても兄の怒りは解けず、弟は海の神様たちの助を借りてどうにか釣り針を探し出し返却するが…
画家の作り出す古代の海の中の、不思議な雰囲気がいつまでも印象に残る作品。昔の中国風の上品な衣装や、水中カメラで撮影した海の底を連想させる独特の世界観が、神話の世界へといざなってくれる。
兄弟間の争いの話だが、生々しさはなく、現実離れした妙な雰囲気で、見たこともない神話の世界はこんな風なのかと納得してしまう説得力があった。
能の舞台も見たいが、このお話を見て、日本の神話の世界を訪ねてみたくなった。絵にかかれると、画家の個性や考えによっていろいろに表現されるが、この絵本ではずいぶんと「水」の不思議な力、海底の未知なる世界が強烈に心に残った。
画家の力量のすばらしさを改めて感じた。上品で、示唆に富んだ興味深い絵本。どちらかというと大人向きの一冊だと思う。