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これは少年の成長物語だ
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投稿日:2022/08/28 |
絵本作家と呼ばれる人は、
もしかしたら物語などを書く作家よりもたくさんいるかもしれない。
物語作家にもお気に入りの人がいるように、
絵本作家にもこの人の作品なら読んでみたくなる、
そんな人がいる。
石川えりこさんも、私にとっては、そんな絵本作家の一人だ。
石川えりこさんは私と同世代ということもあって、
絵から醸し出る世界観に共鳴するところがある。
いってみれば、昭和30年代の匂いというと、失礼だろうか。
2022年6月に出たばかりの、この『庭にくるとり』にしても、
物語の背景は決して昭和ではないが、
描かれる少年はじめ君の、どこか孤独感のする感情などは
やはり自分たちが育ってきた世界に近い。
この作品の書き出しには驚く。
何の前触れもなく、
「ぼくは母さんが生まれた家でくらすことになった。」で
始まる。
え?!
お父さんはどうしたの?
離婚? 死別?
何もわからないが、はじめ君がどうやら転校して
おじいさんの家に住みだしたことがわかる。
はじめ君の孤独をおじいさんが癒してくれる。
庭にやってくる鳥のことや樹木のことを
おじいさんはたくさん教えてくれる。
父親の不在を祖父が埋めていく。
そして、少年は次第に大人に成長していく。
この『庭にくるとり』は、
少年の成長物語なのだ。
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かえるのおはなし会ではどんな本を読むのかな
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投稿日:2022/08/21 |
かえるを苦手という子供も多いだろうが、その一方でキャラクターとしてのかえるは人気者だ。
おじいちゃんおばあちゃん世代にも人気のあったコルゲンのケロちゃんなんかは、
今でも子供たちに人気があったりする。
大きな目、大きな口、あたりがかわいいのかもしれない。
そんなかえるの世界に本屋があったらどうだろう。
やぎたみこさんの『かえるのほんや』は、子供たちが大好きなかえるたちを主人公にして、
その活躍の舞台を本屋さんに設定した、子供のお話し会にぴったりの絵本に仕上がっています。
何しろ、かえるの子供のおたまじゃくし向けにお話し会なんかしたりしているのですから。
お話し会ではどんな本を読んでいるかというと、
小さい子向けと足がはえてきた少し大きな子向けの本を変えていたりして、
人間の世界顔負けの、気配りをしている。
かえるたちの本はどうして作っているのだろう。
ほんやの奥が出版社みたいになっていて、かえるの本ができるまでのいろんな工程を知ることができる。
そこでは作家のかえるとか絵描きのかえるとか集まって、新しい本づくりの会議をしたりしている。
アイデアが浮かばないかえるたちの前に、白い犬が迷い込んできて、さて、どうなる?
やぎさんのやさしい色づかいと、楽しいアイデア満載のこの絵本の巻末には
「かえる文字」の一覧まで付いています。
あなたなら何文字読めるだろうか。
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子供たちに戦争を伝えていくために
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投稿日:2022/08/16 |
戦後77年も経ち、子供たちに太平洋戦争のことを伝えるのは、どんどん難しくなっている。
何しろ、おじいちゃんおばあちゃん世代も若い頃は「戦争を知らない子供たち」と歌っていた人たちになっているのだから。
もちろん、子供向けの絵本にも戦争の悲惨さや悲しみを描いたものもあるし、
「漫画の神様」と呼ばれた手塚治虫さんには当時の戦争の頃を描いた作品も多いから、
そういう作品で伝えることはできる。
そして、子供たちが小学生の高学年になったら、読ませてあげたいのが、
児童文学者今江祥智(よしとも)さんの『ぼんぼん』だ。
今江さんは1932年に大阪に生まれた。(2015年逝去)
なので、1928年生まれの手塚治虫さんと近い世代ということもあって、
『ぼんぼん』と手塚さんの戦争漫画は似た匂いを持っている。
読み比べてみるのも面白い。
『ぼんぼん』は、小学3年生から小学6年生までの洋という、大阪市内で暮らす少年の物語である。
昭和16年の春から昭和20年8月の終戦までを描いている。(エピローグではその2年後の姿も書かれている)
物語の初めの頃は戦時中といっても、すごく平和な感じすらしているが、それがどんどんなくなっていく。
主人公の洋には洋二郎という4つ違いの兄がいるが、洋楽の好きな兄もどんどん軍国少年に変わっていく。
そして、昭和20年3月13日、大阪は大空襲にあう。洋たちの街も火の海に巻き込まれていく。
空襲の中逃げ惑う人々、炎に焼け死んでいく人々、焼き跡の中で洋が見た米軍墜落機への過酷な仕打ち。
普通であったことが、いつの間にか狂気になっていく怖さが、この作品にはある。
物語を読むことで、自身が経験しなかったものを味わう。
子供たちに読み継がせていきたいし、
「戦争を知らない子供たち」と歌ったおじいちゃんおばあちゃんにも
読んでもらいたい一冊だ。
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参議院選挙までに読みたかった
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投稿日:2022/08/07 |
ノンフィクション作家の柳田邦男さんは「絵本は人生で三度楽しめる」と言います。
それは「幼少期」「子どもへの読み聞かせ期」そして「人生の後半期」です。
それでも絵本の読者層は圧倒的に「幼少期」の子どもたちですから、
出版する側もそれに合わせた絵本づくりをするのは当然でしょう。
では、塚本やすしさんの『きょうは選挙の日。』は、どうでしょうか。
出版されたのが、2022年6月。
ということは、7月10日に実施された第26回参議院選挙を意識したものだったのでしょう。
公示は6月でしたし。
投票率をあげるために様々な取り組みが行われていますから、
国民の選挙に対する意識を高めるために、「幼少期」から興味を持たせるということなのでしょう。
でも、さすがに「幼少期」では早すぎるように思いますが。
できれば、小学生以上の子どもたちに読んでもらいたい。
絵本に登場する家族の、お父さんとお母さんに連れられていく子どもも、小学生ぐらいの男の子だし。
ただ、この家族のようにおしゃれして投票所に行くかな。
もっと普段着だと思います。
表紙の見返しにも「選挙は特別なものではなく、日常の延長のものであること」と、
書いているくらいなのに、惜しい。
今度の選挙がある時まで、ちゃんとしまっておきましょう。
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すいかに塩ふって食べますか?
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投稿日:2022/07/31 |
ひとかかえもありそうな大きなすいかをスーパーなどで見かけると、
ついため息がでる。
子供の頃は、といってももう半世紀以上も前のことだが
家族も多かったし、スイカを丸ごと買ってもみんなで食べてしまえたものだ。
最近は家庭菜園で小ぶりの小玉すいかを栽培するのが人気だったり
スーパーではカットすいかが売り場を占領したりしているのも
時代の変化なんだと思う。
『すいかごろごろ』という絵本には、「はじめてのこよみえほん」というシリーズ名がついている。
文を書いたすとうあさえさんには「おいしい行事のえほん」シリーズなどもあって、
生活の場を大切にする人なんだろうと推測する。
すいかはどの「こよみ」に合うかといえば、やはり「大暑」だろう。
この絵本の巻末にすとうさんの短文が載っていて、
そこに「「大暑」は、すいか!」と書かれている。
暑い時期だからこそ、すいかのおいしさがひとしおになる。
ひとしおで思い出したが、
子供の頃はすいかには必ず塩をふりかけていたものだ。
そうすると、甘味がますと教えられたものだ。
そんなすいかの思い出を
すとうあさえさんの文とともに北村裕花さんのほのぼのとした絵が
醸し出してくれる。
すいかを食べている家族の
なんともいえない幸福そうな顔といったら。
そういえば、すいか割りも随分していない。
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迫力のあるオオカミの表情
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投稿日:2022/07/17 |
絵本作家あべ弘士さんは、以前北海道旭川にある旭山動物園で飼育員として20年以上働いていた経歴を持っています。
あべさんの名前を一躍有名にしたのは、
オオカミとヤギとの交流を描いた木村裕一さんの『あらしのよるに』という作品の絵を描いた時で、
動物園の飼育員としての経験が生かされたといえます。
その後も、あべさんは動物たちが登場する絵本を、
別の人が文を書くこともありますし、自身で文も書くことがあります、多く出版してきました。
あべさんの原点に『シートン動物記』がどこまで影響していたかわかりませんが、
男の子の読書体験に『シートン動物記』はとても重要な作品だったのではないでしょうか。
女の子が『赤毛のアン』にはまっていくように。
なので、あべさんが『シートン動物記』から自ら文と絵を描いた作品集が出たとして、ちっとも不思議ではないし、
あべさんの思いが叶えられたようで、読者としてもうれしいシリーズになっています。
その一冊目が『オオカミ王ロボ』というのも納得です。
表紙のオオカミを正面から描いた絵など、あべさんの渾身の一枚ではないでしょうか。
物語の中で、オオカミの足跡が狂暴で知恵の働くロボというオオカミを退治するキーになっていますが、
児童書として刊行されている本ではなかなか見ることができない、オオカミの足跡が描かれていて、
なるほどオオカミというのはこういう足跡なのかと納得がいくように描かれています。
もちろん、実際のシートンの物語はもっと長い作品ですから、
あべさんの本を読んで満足するのではなく、ぜひちゃんと訳された本を次には読むことを薦めます。
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なんともおいしいそうなえだまめです
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投稿日:2022/07/03 |
えだまめといったら、ビールでしょ。というのは、おとなの発想で、ぷっくらとふくらんだ莢から飛び出すその様子は、赤ちゃんにとってはたまらない面白さ。
それに、一粒一粒がかわいくて、しかもおいしいですから、赤ちゃんも気にいってくれるはず。
そんなえだまめの魅力を絵本にしたのが、この本。
しかも、この絵本は「語りかけ絵本」となっていて、絵本を読むだけで自然と赤ちゃんに語りかけるようにできています。
作者のこがようこさんは25年以上様々な場所でお話を届ける活動をしてきた方です。
こがさんのところには赤ちゃんが生まれて絵本を読んであげたいんだけど、どんなふうに読んであげたらいいのかわからないというお父さんお母さんからの悩みが届くことがあって、それなら絵本を読むだけで、語りかけになる作品を作ろうと出来上がったのが、この絵本です。
ですが、この絵本には長い文章はありません。
ほとんど赤ちゃんと普段会話している、そんなレベルの文章ばかりです。
それと、動作が伴うような言葉も多く使われています。
莢にはいったえだまめを「だしてみる?」と動作で誘い、「ピュッ!」と言葉で遊びます。
そんな語りかけでできた絵本ですが、絵もとてもきれいなんです。
しかも、この絵本のえだまえは何よりもおいしそうなんです。
赤ちゃんじゃなくても、つい「パクッ!」と口にしたくなります。
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この懐かしい感じは何だろう
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投稿日:2022/06/26 |
なんとも贅沢な絵本です。
贅沢というのは、この絵本を作った人のことを指しています。
まず、文を書いた人。
今年(2022年)1月に亡くなった児童文学者で文化功労者でもあった松岡享子さんが、まるで昔話を再録したかのようなお話に仕上げています。
次に、絵を描いた人。
女流日本画に与えられる上村松園賞を受賞した画家で、晩年には文化勲章も受章されている、秋野不矩(ふく)さんが絵を担当しています。
絵本というのは絵が与える要素も大きいですから、やはりしっかりした画家が描いた作品は、絵を見ているだけでも落ち着きます。
物語は「むかし、あるところに」から始まります。
心の優しい老夫婦が育てていたかぼちゃ畑に、ひときわ大きなかぼちゃができました。
そのかぼちゃからなんと「ぴいひゃら どんどん」と祭りばやしが聞こえてくるではありませんか。
驚いた老夫婦がそっとかぼちゃの中をのぞいてみると、親指ほどの大きさの男女があつまって踊っています。
その祭りばやしに老夫婦も楽しくなってきます。
ところが、ある時から祭りばやしが聞こえなくなります。
心配した老夫婦がのぞいてみると、彼らのたいこの皮が破れてしまっています。
優しい老夫婦は、手作りで小さなたいこをこしらえてあげることにしました。
なんだかこんな昔話を小さい頃に聞いたようなそんな懐かしさは、物語に登場するおじいさんおばあさんの優しさが醸し出しているのでしょう。
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野風僧
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投稿日:2022/06/19 |
河島英五が唄う「野風僧(のふうぞ)」という歌が好きだ。作詞は伊奈二郎で、「野風僧」とは中国地方の方言で「やんちゃ坊主」という意味らしい。
「お前が二十歳になったら/酒場で二人で飲みたいものだ」という歌詞で始まるこの歌は、父親が息子にあてた応援メッセージだ。最後には「いいか男は 生意気ぐらいが丁度いい/いいか男は 大きな夢を持て」と繰り返される。
板橋雅弘さんのこの絵本(絵は吉田尚令さん)に登場する「わるもの」が仕事のパパもお酒がまわってくると、なんだかこの「野風僧」を唄っているんじゃないかしらん。きっととっても下手だけど、しんみりさせているような気がする。
学校の宿題で「おとうさんの仕事」を調べるために、ある日、パパの車にこっそり乗りこんだ「ぼく」。着いたのはプロレス会場でもある大きな体育館。
そこで「ぼく」が見たのは、正義のレスラーにずるいことをする覆面レスラー「ごきぶりマスク」。でも、なんだかパパに似てる。そう「ぼく」のパパは悪役レスラーだった。
「パパはわるものだったんだね」と涙を流す「ぼく」に、パパはこう言った。
「わるものがいないと、せいぎのみかたがかつやくできないだろう? みんなのために パパはがんばってわるいことをしてるんだ」って。
夕日のなかを一緒に帰る父と子は、なんだかとても仕合せそうだ。
だって、なかなか「おとうさんの仕事」ってわからない。
大きなビルで働いていても、何をしているのかわからない。電話にむかって頭をさげているって変だし、パソコンをどうしてにらんでいるのかもわからない。それに比べたら、「ぼく」のパパの仕事はとてもわかりやすいい。覆面はしているけれど、りっぱに「わるもの」している。
「ぼく」はきっと胸はっていいんじゃないかな。「おとうさんのしごと」がきちんとわかるってことに。パパもきっと胸はっていいんじゃないかな。「わるもの」に理解をした息子がいるってことに。
「いいか男は 大きな夢を持て/野風僧 野風僧 男は夢を持て」
今夜もいいお酒にちがいない。
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あなたはおひめさま
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投稿日:2022/06/12 |
街なかで車いすで行ききしている人を見かけると、大変だなと思います。
あの道は段差があるし、駅への階段は無理だし、エレベーターまでは遠いし。
でも、実はもっと大変なことがあります。
それが着替え。
この絵本の裏表紙の折り返しに、札幌在住のスタイリスト石切山祥子さんがこんな文章を載せています。
「世の中には洋服を着るだけでも大変な方がたくさんいます」と。
スタイリストだから気がついたことかもしれません。
車いすの方向けのウェディングドレスをデザインするといった、石切山さんの活動を絵本にしたのが、この一冊です。
釧路生まれの直木賞作家桜木紫乃さんが文を書いて、札幌生まれのイラストレーターそらさんが絵を描いています。
出版したのが北海道新聞社。
この絵本はオール北海道で生まれた作品です。
「サチコさん」はもちろん石切山祥子(さちこ)さんがモデルです。
車いすで生活しているなっちゃんが結婚するというので、ウェディングドレスをデザインすることになりました。
でも、あの裾が広がったドレスは車いすに車輪にからんでしまうかもしれません。
サチコさんはいっぱい考えました。
そして、ついに・・・。
「ドレスはいつだって あなたを おひめさまにしてくれる」
北海道から涼やかな風が届いたような絵本です。
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