『現代と保育 68号』連載 子どもとあそぶえ・ほ・ん vol.1
連載 <子どもとあそぶえ・ほ・ん> vol.1
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『木がある生活』
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「木はいいなあ」
大きな木の、生い茂った葉っぱが風に揺れる音が好きで、天気の良い日に並木を見上げて歩きながら思い出す絵本があります。
『木はいいなぁ』。題名の通り、木がある生活のすばらしさを描いた絵本です。かつて保育士として働いていた作者のユードリイが、自信の幼い頃の経験を子どもたちに伝えたいとつくられたお話で、その思いがおおらかで爽やかな文章や絵から素直に伝わってきます。
具体的にストーリーがあるわけではないのでちょっとわかりにくいかなぁと思いつつ、三歳になったばかりだった息子と一緒に読んでみました。するとけっこう真剣に見入っています。横で「き、木、キ」。一生懸命発音の練習をしたりして。わかっているのかなぁ・・・・・・。
ところがしばらく経ったある日、息子と外で散歩をしていると近くにあった木を見上げながら誰ともなしにつぶやいたのです。
「木はいいなぁ・・・・・・」
理解して言っているわけではないだろうけど、小さな子が実際の木を見ながらつぶやくその姿はちょっと感動的です。あぁ何かが伝わったのかなぁ、と。
そこで高鳴るこの気持ちを胸に「木」がテーマになっている絵本を何冊か読んでみることにしました。
「木のうた」
一冊目は一本の大きな木と、木をとりまく自然や生き物たちの一年の移り変わりを絵だけで表現している『木のうた』。洗練された絵だからこそ小さな子どもたちの感覚に響くのでしょう。装いの変化のその美しさに目を奪われます。
「木」
『おおきなかぶ』(福音館書店)の絵を描いた彫刻家佐藤忠良は散歩の合間に木のデッサンをし始めて十五年になるそうです。その対話が『木』という絵本になっています。木と向かい合い続ける、そのことがそのまま木への賛歌となってデッサンに現れているようです。迫力のある存在感、表現の多彩さに圧倒されます。何回向き合っても帰ってくる答えは違うものかもしれませんね。
そして『おおきなきがほしい』は誰もが持っている木へのあこがれをそのままお話にしてくれているような絵本です。主人公の男の子かおるは、もし大きな木があったらこんなすてきな小屋をつくりたい、夢のある想像がふくらんでいきます。実際に大きな木に登ったことがあるからこその発想なのでしょうね、あの何とも言えない爽快な感覚が蘇ってくるようです。
こうして読んでいくと私たちがどうして木に惹かれていくのかわかってくるような気がします。一旦根を下ろすと上へ上へ成長して大きくなっていくその姿にはあこがれを抱き、豊かな表情や季節ごとの変化は私たちの目を楽しませてくれます。でも、何より大きいのはその存在感。年月が経とうとも環境に変化があろうとも「そこに変わらず立っている」という安心感や包み込んでくれるような大きさに惹かれるのではないでしょうか。そして子どもたちは言葉なんかなくとも、木を見上げているだけでそういったことを感じているのかもしれません。実際に触れ、遊び、育てることで私たちが思っている以上のことを学んでいるのでしょう。木がある、ということはそれだけですばらしいことなのですね。
もう一冊、大きなペカンという木が中心となって元気に子どもたちが毎日過ごしている幼稚園のお話
『ペカンの木のぼったよ』があります。重い障害をもつりんちゃんも一緒に毎日ペカンの木の下で過ごすのです。幼稚園の無邪気で優しいみんなが起こす賑やかな騒動を大きなペカンの木が包みこんでいる、このお話が大好きです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
※季刊誌『現代と保育』(ひとなる書房)にて<子どもとあそぶえほん>というコーナーを連載中です。主に子どもの生活との関わりから絵本を紹介しています。
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