谷口智則さん最新刊 全然違う「きみ」と「ぼく」の物語
絵本紹介
2023.06.20
夏休みの宿題、その最後の砦になることが多い読書感想文……。高学年になると、本はボリュームがあるし、感想文の文字数も増えるし。楽しい休みの日々でつい後回しにしてしまう気持ち、わかります。
夏休みまで時間があるこの時期から、気になる本を選んで、読み進めてみるのはいかがでしょうか。長編の本もゆったりと向き合えばじっくり内容への理解を深められ、細かな描写や登場人物の心の動きまで気づくことができると思います。宿題だからと肩肘張らず、物語の世界を楽しめるといいですね。
多様性の認め合い、大切な人を失ったときの喪失感、戦争と平和について今を生きる人々ができること……今回ご紹介する本は、読んだ子どもたちの心を揺さぶるエッセンスが込められた作品がそろっています。物語に出てくる人々に心を重ねたり、自分と違う視点や考えを受け止めてみたり、本だからできる体験を味わってほしいなと思います。
その体験さえあれば、読書感想文はきっと……!
みどころ
スコットランドの小さな村で、双子の姉と両親の五人で暮らす少女・アディ。
学校の授業で、自分の住んでいる村でかつて「人とちがう」というだけで処刑されたという魔女裁判の話を聞いたアディは、村の委員会で魔女の慰霊碑を作ることを提案します。けれども村の評判をおとしめるようなものを置く気にはなれないと「却下」されてしまいます。
アディは慰霊碑を作ることにこだわります。その理由はアディには自閉の傾向があり、人とちがうというレッテルを貼られているから。魔女裁判の授業の時、クラスメイトのエミリーに「アディも火あぶりにされてたかも」と言われ、担任の先生やクラスメイトから笑われたことも心に突き刺さっていました。アディにとって、村に慰霊碑を作るというのは、過去の魔女裁判の間違いを認め、同じことを繰り返さないようにするために必要なもの、さらにはアディ自身が自分らしく生きていくための戦いでもあったのです。
この作品の興味深いところは、歴史上の出来事と、現在の自分の状況を照らし合わせ、目の前にある現実の問題を少しでも良い方向にしようと模索し、行動するところにあるのではないかと思います。
登場人物の中でとくにアディにとって重要な存在として描かれるのが、双子の姉のひとり、キーディです。キーディもまたアディと同じ自閉の傾向があるため、アディの苦しみやつらさを誰よりも理解し、どんな時もアディを支えます。しかし大学生となって自分をコントロールする方法を覚えたかのように見えたキーディもまた、周りに合わせることの苦しみを抱えていたのでした。他、もう一人の姉や、アディの両親、学校の担任先生、図書館司書の先生、かつての親友や転校生などが登場し、アディに対してさまざまな態度で接します。読んでいると、自分だったらどの立場にたつことができるのだろうかと問われるようです。
数々の児童文学賞を受賞し、世界で高い評価を受けている本作には、昔から変わらずに存在し続けている差別や偏見について考えさせられる深いテーマが込められています。読み進めていくと、自分の中にある差別や偏見に気づかされたり、また「人とちがう」と周りから見られていたり、自分自身で感じている人たちがどんな思いで周りに合わせようとしているかを知り、想像することでしょう。また目の前で差別的な出来事が起こった時、止めずに傍観していることの罪もこの作品を通して考えたい大きなテーマです。
対象年齢は小学5、6年生ぐらいから大人まで。「多様性」の大切さが叫ばれ、ますます重要となっていく今とこれからの時代にぜひ手に取りたい作品です。
作者のエル・マクニコルさんはスコットランド生まれの児童文学作家で、ニューロダイバーシティ(脳の多様性)をテーマにした作品を次々に発表されており、本作はその最初の作品だそうです。
出版社からの内容紹介
夏の初め、6年生の佳斗は、おばあちゃんの住んでいた家に引越してきた。
おばあちゃんは冬に亡くなって、もういない。
でも、おばあちゃんのネコのテンちゃんがなついてくれたので、
佳斗はうれしかった。
ところが、テンちゃんは急に、家に帰ってこなくなった。
佳斗は、はり紙やチラシを作って、
「ネコさがし」を始める。
「ネコさがし」の途中で出会った、
同い年のちょっと変わった少年、蘭が、
「手伝ってやる」と言ってくれた。
蘭は、よくおばあちゃんを車椅子で散歩させているから、
町にいるネコにくわしいのだという。
二人でネコをさがすうちに、佳斗はこの町について、
自分と蘭の家族について、
さまざまな発見をして…?
喪失から立ち直り、
自分の世界を広げていく十二歳の少年を
みずみずしく描いた、心に残る物語。
『ハルと歩いた』の西田俊也が贈る、
感動の一冊。
この書籍を作った人
1960年奈良市生まれ。1989年作家デビュー。マンガ原作、作詞、映画脚本などを手がける。児童文学・YAの作品に「両手のなかの海」「ハルと歩いた」「少女A」「12歳で死んだあの子は」、大人向けの作品に「love history」(メディアファクトリー)「やんぐとれいん」(文藝春秋)など。
みどころ
おまつりの夜、少年ジョバンニがひとり町のはずれでどこからともなく聞いたのは、汽車の音と「銀河ステーション」というふしぎな声。気がつくと目の前には親友カムパネルラが座っており、ふたりは一緒に小さなその鉄道にのっていたのです。
銀河をかけぬけていくその列車、ふたりの少年はどこへ向かっているのでしょう。幻想的な景色や出来事を目にしながら、ジョバンニは幸せについて、生きる事について考えるのです。やがて、そこらが一ぺんにまっくらになったかと思うと・・・。
宮沢賢治の作品といえば、誰もが最初に思い浮かべるであろう名作「銀河鉄道の夜」。
たくさんの人が読み、たくさんのイメージが生まれ続けているこの童話ですが、また新たな世界を見せてくれる傑作絵本が誕生しました。
独特の世界観で描かれたこの童話に小学生の時に出会い、以来十代の終わり頃から50年の時をかけて「銀河鉄道の夜」のビジュアル化を目指して制作を続けられたというのは金井一郎さん。
絵本を開くと広がっているのは、見た事のないような表現。その不思議な世界は幻想的であり、銀河を想像させてくれます。まさに現実と空想、生と死のはざまを表しているかのようです。
「翳り絵」と呼ぶその手法は穴をあけた黒いラシャ紙から浮かびあがる光の粒の集積によって表現されたもの。
宮沢賢治のこの物語が、こんなに奥深く美しい世界を生み出してしまうのだから、やはり驚いてしまいます。初めて出会う子どもたちも、何度も読んできた大人も、じっくりと味わい読み込んでもらいたい1冊です。
この書籍を作った人
1896年岩手県花巻市に生まれる。盛岡高等農林学校農芸化学科卒業。十代の頃から短歌を書き始め、その後、農業研究家、農村指導者として活動しつつ文芸の道を志ざし、詩・童話へとその領域を広げながら創作を続けた。生前に刊行された詩集に『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』がある。彼の作品の殆どは没後に高く評価され多数の作品が刊行された。また、何度も全集が刊行された。1933年に37歳で病没。主な作品に『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』『ポラーノの広場』『注文の多い料理店』『どんぐりと山猫』『よだかの星』『雪渡り』『やまなし』『セロひきのゴーシュ』他多数。
出版社からの内容紹介
広島に住む小学校5年生のリョウタ。同居する祖父から、原爆で亡くなった祖父の兄ミノルの話を聞く。平和学習で資料館に行き、戦争は怖い、二度と繰り返してはいけないと思っていた一方、どこか遠い昔の出来事のようにも感じていた。しかし、祖父の話から興味を持ったリョウタは、亡き大おじミノルの足跡をたどろうと思う。
リョウタが憧れる女子バレー部のキャプテン、レイは共働きの両親にかわり育ててくれた曾祖母のことが好きだった。原爆で子どもをなくしている祖母は、時おり記憶がまだらになり、我が子を捜し始める。近所の子どもたちからも変人扱いされている曾祖母の姿を見るのは辛く、なんとか彼女を救いたいと思うレイだが――。
平和のために、今、私たちは何ができるのだろう――すべての人が幸せに生きられる世界へ、祈りをこめた物語。
出版社からの内容紹介
美しかった島は姿を変え、友だちは森に消えた。13歳のイサベラは、真相を追って禁じられた森へと足を踏み入れる。星を読み、不思議な地図に導かれて――。ウォーターストーンズ児童文学賞とブリティッシュブックアワードをW受賞、カーネギー賞ほかノミネート多数。各国で絶賛された、伝説と魔法きらめく冒険ファンタジー。
出版社からの内容紹介
作家の家には、なぞめいたドアがある。ドアのむこうには、特別なパスポートを持った人しか入れないという。クラスの子どもたちは作家と手紙をかわしながら、パスポートやビザの申請といった課題にむきあううちに、仲間や自分をより深く知っていく。オランダの人気児童文学作家二人による、子どもたちへのエールに満ちた物語。
出版社からの内容紹介
どんな境遇にあっても、豊かな想像力と人を愛する心を忘れなかった赤毛の少女。カナダ出身のイラストレーターによる美しい絵とともに、名作を堪能できるカラー完訳愛蔵版。
出版社からの内容紹介
教科書にものっている短編「空中ブランコのりのキキ」を含む別役実童話の世界が、装いを新たによみがえる!空中ブランコのりのキキは、サーカス界のトップスター。しかし、そんな彼女の頭の中には、自分にしかできない三回宙返りを、いつか他の誰かもやってしまうのではないかという不安が…。予感は的中。はたしてキキに残された道は…。現在発行中の『中学生の国語1年』(三省堂)にも登場する「空中ブランコのりのキキ」。他人や社会から求められる「自己」と自分自身が自覚する「自己」との間で、人はどのように生き、成長していくべきか、を投げかけています。この「空中ブランコのりのキキ」を含む短編3編に加え、名作との呼び声高い長編「黒い郵便船」など、別役文学の傑作作品を収録しています!その独自の世界観を、ぜひ本書でお楽しみください。
文:竹原雅子 編集:木村春子