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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  いわさきちひろ没後50年展「こどもの みなさまへ」 展覧会ディレクターplaplaxさんインタビュー

55年の生涯の中で子どもの生活を描き続けた画家・いわさきちひろ。2024年はいわさきちひろ没後50年の節目の年です。生前、ちひろが愛した東京の石神井と、長野の安曇野にある「ちひろ美術館」では、2024年3月から2025年1月末まで「いわさきちひろ ぼつご50ねん こどものみなさまへ」展を開催しています。この展覧会はいわさきちひろの遺した膨大な作品の中から「あそび」「自然」「平和」の3つのテーマを設け、今までになかった現代科学によるアプローチで、いわさきちひろの作品の魅力を体感することができます。

今回、展覧会ディレクターを務めたアートユニットplaplax(プラプラックス)の近森基さん、小原藍さんのお二人にお話しを伺いました。まずは、plaplaxさんと一緒にちひろ美術館・東京で開催中の「自然」をテーマにした「あれ これ いのち」の展示を観てみましょう。

この人にインタビューしました

近森基 小原藍(plaplax)

近森基 小原藍(plaplax) (ぷらぷらっくす)

インタラクティブな作品制作を軸に、展覧会の展示構成、空間演出、映像コンテンツの企画制作など幅広く活躍する。さまざまな手法やメディアを使って、創造的な学びや発見のある体験づくりに取り組む。2018年、「いわさきちひろ生誕100年『Life展』あそぶplaplax」をちひろ美術館(東京・安曇野)で開催。

ちひろが描いた石神井の風景から観る、自然の変化

展示室1では、いわさきちひろが生前暮らした石神井周辺の自然を描いた作品が展示されています。

近森:今回の展覧会の最大の特徴は、テーマごとに専門家の先生をお招きして、展示する作品のコンセプトや紹介する切り口を決めたことです。6月16日までちひろ美術館・東京で開催されている「あれ これ いのち」では、東京大学名誉教授で理学博士の鷲谷いづみ先生にご協力いただき、ちひろが暮らした1960年代の練馬区石神井周辺の自然や生き物について、生態学の視点からちひろの絵を読み解いていただきました。

小原:作品の解説も鷲谷先生に書いていただいたのですが、先生自身、このような絵の展覧会に企画協力という形で参加されることが初めてだということで、とても楽しんでくださっていました。

展示室1で目を引くのがこちらの絵。鷲谷先生がちひろの絵の中でもひと際、興味を持った一枚なのだそうです。

小原:この絵を見たとき、鷲谷先生が「この絵の中には、もともと日本にいるべき、守るべき植生が描かれています。これはすごいことです」とおっしゃったんです。「これは今の日本ではレッドリストですよ、この植物もレッドリストです……」と。 ちひろさんがこの絵を描いたときはごく当たり前に、身近な自然を描いたんだと思うんです。それが半世紀以上経ったことで、学術的に重要な資料になったということがとても面白いと思いました。

近森:生態学の視点からちひろの絵を見ている鷲谷先生のお話を聞いたとき、この絵を今まで のように額に入れて展示するよりも、標本のように描かれた植物ひとつひとつに解説をつける というアイデアが浮かびました。

展示室1の中で、もうひとつ注目したいのが、透明ケースの中におさめられた小さなスケッチ。ちひろ美術館の担当の方によると、長いちひろ美術館の歴史の中でも、初めて展示する作品なのだそうです。

近森:おそらく、ちひろさんが練習のために描いたスケッチだと思うんですが、鷲谷先生曰く、50年以上も前になると、当時の生き物の鮮明な写真や記録ってあまり残っていないのだそうです。でも、ちひろさんのこのスケッチは、生き物の特徴を正しく捉えていて、博物学的にも大変、価値があるとおっしゃっていました。なので、ここでは博物館的な見せ方、標本を並べるように展示することにしました。

ただ絵を鑑賞するのではなく絵を通して遊ぶようなインタラクティブな作品も本展覧会の目玉です。展示室1では、大きなスクリーンに線を描くと、その線の形を認識して、モノクロの絵が登場します。横に波線を引くと「山」と認識して鳥が飛んできたり、丸を描くと「池」と認識してカエルが跳びこんできます。

近森:今回、改めてちひろさんの作品を読み込んだとき、僕はちひろさんの線画が好きになったんです。ちひろさんの線画の良さ、面白さを皆さんに体感していただきたいと思い、この作品を作りました。ちひろさんの絵と一緒になって遊ぶ、コラボレーションするという感覚で体感してもらいたいです。

小原:線を描いて現れるのは基本、モノクロの生き物たちですが、スペシャルバージョンでカラーの絵が出てきます。どんな線を描くとカラーの絵が出てくるのか、ぜひ楽しんでいろいろな線を描いてもらいたいですね。

ちひろが愛した「紫色」を科学の目で紐解く「あれこれむらさき」

展示室2は、ちひろの絵に多く登場する「紫色」を集めた展示「あれこれ むらさき」です。

近森:ちひろさんが好きで、ご自身の絵の中にも多く使われている「紫色」について、鷲谷先生に研究者としての意見を求めました。すると、紫色が日本人にとって、万葉の時代から生活と密着した色だということが分かりました。「花の色」や「おいしい色」「好きな色」といろいろな切り口で紫色のものを集めて、ちひろ美術館の方にちひろさんの絵の中から、特に紫色が印象的な作品を選んでいただきました。

小原:「むらさきのうた」では、『万葉のうた』(童心社) からムラサキという植物が出てくる一首を選びました。おそらくちひろさんは、色として「紫色が好き」というだけではなく、古代から日本人と共にあった紫色、日本文化としての「紫」を意識してご自身の絵に使われていたのだと思います。紫色の持つ意味がこの展示で伝わればいいなと思っています。

「あれこれ むらさき」の部屋の中でもとりわけ気になる紫の展示がこちら。壁にいろいろな紫の形が散りばめられています。

小原:これは、ちひろさんの絵の中から紫色で描かれた形を選んで、切り取って壁にレイアウトしたものです。セーターやチョウチョ、長靴などは形を見てパッと分かると思うのですが、「これは一体何の形だろう?」と首をかしげるものもありますよね。どの絵の紫の部分なのか、いろいろ想像していただきたいです。

絵本『あかまんまとうげ』が教えてくれる人と自然の共生と「野」

展示室3では絵本『あかまんまとうげ』(童心社)が展示されています。

近森:『あかまんまとうげ』は、ちひろの絵本の中では注目される機会の少ない作品だと思います。しかし、生態学の視点から見たとき、人と自然の共生している世界としてすごく好ましい事例だと、鷲谷先生はおっしゃいました。多くの人が「自然」というと「森」をイメージすると思うんです。でも、鷲谷先生からすると、「森」は大きく育った木が地面に日陰を作るため、小さな草花が育ちにくく、生物多様性の観点からいうとそれほど「多様」ではないのだそう。それよりも「野」が大事だと。 なので、人と自然の共生を描いた『あかまんまとうげ』を入口に、「野」を感じてほしいと、この作品を展示することを決めました。

小原:「野」は今回の展覧会で、とても大切なキーワードです。安曇野ちひろ美術館のある安曇野も「野」ですし、ちひろ美術館・東京もかつて「武蔵野」と呼ばれた土地で「野」なんです。人の暮らしと密接した自然がある場所はやはり「野」なんだということを、私たちも鷲谷先生のお話を聞いて改めて感じました。

『あかまんまとうげ』の展示を抜けた先にある展示室4では、plaplaxさんらしい体感する展示の数々が。訪れた人が自由に絵や言葉で「自然へのおもい」を表現したり、生き物の作品を作れるアートを楽しめます。

近森:この展示では、訪れた皆さんに、自由に「野」を広げていってほしいですね。

50年、100年後の子どもたちに伝えていきたい、いわさきちひろからのメッセージ

───plaplaxさんのお話を聞きながら、作品を鑑賞するという、とても貴重な体験をさせていただきまし た。ありがとうございます。
今回の展覧会ディレクターのお話は、2018年の「いわさきちひろ生誕100年『Life展』あそぶplaplax」がきっかけだったのでしょうか? 

近森:「いわさきちひろ生誕100年『Life展』あそぶplaplax」では、今回のような年間を通して展覧会のディレクションを行うのではなく、様々なジャンルのアーティストの方がいわさきちひろの作品からインスピレーションを受けて、自身の作品とコラボレーションした形で作品を展示していました。ぼくたちはちひろさんの作品の中に流れる「遊び心」に感銘を受けて、訪れた人がちひろさんの世界で遊ぶような作品を作りました。 作品を作るときには、よく絵本の世界を平面から立体にするような感覚で、二人でアイデアを出し、 制作しています。絵本は基本的に1ページ目から進んでいきますが、私たちの作品は自由にどこのページを開いても良いですよという感覚なんです。

小原:2018年の「Life展あそぶ」でも、多方向からちひろさんの世界に触れられる作品作りを心掛けました。その作品を見て、ちひろ作品との今までにないコラボレーションの可能性を感じてくださった美術館の方が、今回、展覧会ディレクターとして声をかけてくださいました。

───約1年かけて、ちひろ美術館・東京と安曇野ちひろ美術館を巡回する形で「あ・そ・ぼ」「あれ これ い のち」「みんな なかまよ」の3つの展覧会が開催されますが、この3つにした理由を教えてください。

小原:ちひろさんが生前ずっと取り組んでこられた大きなテーマが「子ども」と「平和」そして「自然」でしたので、美術館の方とのお話の中でもこの3つを取り上げた展覧会にすることは割と早い段階で決まりました。

近森:2018年の生誕100年展のときはどちらかというとフェスティバルのようなお祝いの要素が強かったのですが、没後50年展を作るには、もうひとつ踏み込んだメッセージが必要だと思いました。ちひろさんが亡くなって50年経って、そこからさらに50年、100年後の未来に、いわさきちひろの何を伝えていきたい か……と。ちひろさんの作品を掘り下げていき、「子ども」「平和」「自然」の3つをしっかり残していきたい。そのうえで我々plaplaxが得意とする、体感する展示で大人だけでなく子どもたちに、ちひろさんの作品を伝えていきたいと思いました。

───今回、展覧会ディレクションを担当されるにあたり、お二人は改めていわさきちひろの絵本を読み込まれたそうですが、新たな発見のあった作品、さらに好きになった作品がありましたら教えてください。

近森:やはり『あかまんまとうげ』は、「あれ これ いのち」で鷲谷先生にご協力いただかなければその魅力に気づけなかった作品だと思います。文章で表現されていることを、ちひろさんがご自身の中で咀嚼して、どのように絵の中に自然描写として描き込んでいったのか。ちひろさんの描く絵があってさらに文章に奥行きが生まれるという、絵と文の相互の効果を、今回、より強く感じました。

小原:『あかまんまとうげ』の表紙の絵を見たことがあるという方は多いと思います。私もその一人でした。でも、鷲谷先生のお話を聞いてからよく見てみると、女の子がわらびを大事に持っていることや、背景に野の草が広がっていること、女の子の髪に挿してあるスミレの花など、人と自然の共生がこの1枚にギュ ッと込められていることに気づきます。今回の展覧会を象徴する大切な1枚なんです。

近森:同じように安曇野ちひろ美術館で開催中の「あ・そ・ぼ」では、企画協力をしていただいた森口祐介先生が『ぽちのきたうみ』(至光社)がお好きということで、この作品を扱った体験型の展示をしています。

小原:『ぽちのきたうみ』の中で、主人公のちいちゃんがお手紙を書く場面があるんですが、部屋の中で机に座って手紙を書いているちいちゃんの目の前に、海が広がっているんです。森口先生が「子どもの世界は現実と空想・想像の境界が曖昧になることがある。この絵は子どもの目から見える世界をとてもよく表して いる」とおっしゃっていて、ちひろさんが描く子どもの世界を安曇野ちひろ美術館では体験していただけます。

―――『ぽちのきたうみ』を含めた「ちいちゃんの絵本」シリーズは2018年の展覧会でも、お好きな作品とし て紹介していますね。お子さんが生まれてからは、お子さんにこの絵本を読むことも多いのでしょうか。

近森:もちろん、何回も読んでいます。うちの子は「ちいちゃん」のことをもう認識しはじているみたいです。あと、「ちいちゃん」にちょっと似ているんですよ(笑)。

小原:これは、ちひろさんの絵が好きな方はみんなおっしゃっていることだと思うんですが、「ちひろさんの描く子どもの中に、我が子(孫)にそっくりな子がいる」んですよね(笑)。似てるポイントは仕草だったり、目線だったり、佇まいだったりといろいろあるかもしれませんが、日本だけでなく世界共通の認識と して「うちの子に似てるな」って思えてしまう。それが本当にすごいことで、ちひろさんの絵の力なんだと感動します。

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大人も子どもも「美術館って楽しいんだ!」を体感してほしい

───今、お二人のお子さんがちょうど2歳ということで、まさにこの展覧会を体感するお子さんのひとりですよね。

小原:正直な話、子どものいるご家庭は、小さい子を連れて美術館に行くこと自体、とても大変です。我が家も子どもと一緒に美術館に行っても、すぐに「お外行く! お外行く!」と言い出されて、ゆっくり作品を見ることはできません。でも、今回お話をいただいたとき、子どもが大好きだったちひろさんの美術館でディレクションをするからには、「美術館って楽しいんだ!」と子どもが心から感じて走り回れるような展覧会にしたいと思いました。

───展覧会のタイトルも「こどもの みなさまへ」と、子どもたちに向けられていますね。

近森:2018年のときは、絵を見る場所と遊ぶ場所を分けていたのですが、今回は体験する空間と絵の展示の距離を前回よりももっと近づけるチャレンジをしています。これは安曇野ちひろ美術館での展示の方がより体感していただけるかもしれません。

小原:展覧会開催の準備中、何度も子どもを連れて安曇野ちひろ美術館に伺ったのですが、うちの子は美術館のことが大好きになって、「公園に行こう!」というのと同じテンションで「展示室行こう!」と言ってくれるようになりました。

───それはすごいですね! 安曇野ちひろ美術館の方がより体験する空間と絵の距離が近いとおっしゃって いましたが、同じ展覧会でも、2つの美術館で展示される作品は変わるのでしょうか?

小原:そうですね。ちひろ美術館・東京と安曇野ちひろ美術館では、展示室の数が違うので、展示される作品の点数も大きく変わると思います。「あれ これ いのち」の展示のことでいうと、東京は春で、展示室1では下石神井で描かれた絵を中心に展示しましたが、安曇野での展示は秋から冬。展示する絵もちひろが愛した黒姫高原を描いたものを加えたりすると思います。

───今日、ちひろ美術館・東京で拝見した「あれ これ いのち」はもちろん、安曇野ちひろ美術館で展示中 の「あ・そ・ぼ」。そして6月からスタートする「みんな なかまよ」が2つの美術館でどんなふうに変わるのか、両方確かめに行きたくなりました。

今日は貴重なお話を本当にありがとうございました。

いわさきちひろ ぼつご50ねん こどもの みなさまへ

●あ・そ・ぼ

2024年3月1日(金)から6月2日(日)まで安曇野にて
2024年6月22日(土)から10月6日(日)まで東京にて

●あれ これ いのち

2024年3月1日(金)から6月16日(日)まで東京にて
2024年9月7日(土)から12月1日(日)まで安曇野にて

●みんな なかまよ

2024年6月8日(土)から9月1日(日)まで安曇野にて
2024年10月12日(土)から2025年1月31日(金)まで東京にて

いわさきちひろ ぼつご50ねん展 特設サイト

撮影:所靖子
構成・編集:木村春子

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