箱のなかにはいっているのは?!
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絵本紹介
2021.09.13
「朝、目をさますといつも、ぼくのまわりはことばの音だらけ。そして、ぼくには、うまくいえない音がある」。毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介するのは『ぼくは川のように話す』。吃音のある詩人をささえた少年の日の出来事を、圧巻の景色と心情あふれる言葉によって表現。その繊細さと力強さを合わせもった絵本の内容とは?
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。
そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
みどころ
「朝、目をさますといつも、ぼくのまわりはことばの音だらけ。
そして、ぼくには、うまくいえない音がある」
それは、ぼくの舌にからみつき、のどの奥にひっかかり、うめくしかない。今日もまた、重い気持ちのまま学校へ向かう。先生がぼくをさすと、みんなが一斉にふりかえる。みんなに聞こえるのは、みんなと違うぼくの喋り方。見えるのは、ゆがんだ顔とびくびくした心だけ。ぼくは……。
放課後、お父さんがぼくを静かな川へつれていく。だまって歩きながら、上手くしゃべれなかったことを思い出すぼくに、お父さんは生涯忘れることのない大切な言葉をかけてくれた。
「ほら、川の水を見てみろ。
あれが、おまえの話し方だ」
「川のように話す」とは、どういうことなのだろう。流れるように話すことが出来ないから、「ぼく」は苦しんでいるのではないか。
ところが、目の前の川の水は、泡立って、波を打ち、渦をまいて、くだけている。川だってどもっているのである。そして、その先にある今よりずっと広い場所をめざし、気負わず、たゆまず流れていく。これがぼくの話し方なのか……。
吃音をもつカナダの詩人、ジョーダン・スコットの実体験をもとにして生まれたこの絵本。うまく回らない口で生きていく、その重みやもどかしさを少年の繊細な心を通して描きながらも、伝わってくるのは、もっと奥にひそむ「話す」ことの怖いくらいの美しさ。物語の中盤で見せるのは、シドニー・スミスが描く圧巻の景色。それは、ぼくがぼくとして生まれ変わる瞬間であり、読者がその意味を理解する場面でもある。
「川のように話す」
胸に迫るこの言葉。どの場面を読むときも、静かにゆっくり。しっかりと向き合いながら読んでもらいたくなる1冊です。
ただ眺めているだけで
この絵本のすごいところは、言葉も絵も、絵本全体をぐるぐると渦巻きながら、全てが「その瞬間の出来事」に向かっていくところ。それはまるで川の流れそのもの。読む人は身を任せながら、物語の中心となっている、圧巻の観音開きの絵をただ眺めればいいのです。目に飛び込んでくるその美しい光景をしっかりと焼き付け、そして繊細に変化していく少年の心に寄り添っていく。それだけで、何かが変わっていくはずなのです。
この書籍を作った人
1978年生まれ。カナダの詩人。2018年、これまでの業績に対してThe Latner Writer′s Trust Poetry Prizeを受賞。初めて絵本のテキストを手がけた本書により、シドニー・スミスとともに、障害をもつ体験を芸術的な表現としてあらわした児童書を対象に選ばれるシュナイダー・ファミリーブック賞を受賞。
この書籍を作った人
カナダのノヴァ・スコシア州郊外に生まれる。ノヴァ・スコシア美術デザイン大学卒業。ジョナルノ・ローソン原案の文字のない絵本『おはなをあげる』(ポプラ社)で、カナダ総督文学賞(児童書部門)、ニューヨークタイムズ・ニューヨーク公共図書館絵本賞など、さまざまな賞を受賞する。海辺の炭鉱のまちのいちにちを描いた『うみべのまちで』(BL出版)で、2018年にケイト・グリーナウェイ賞を受賞。2児の父。家族とともにトロントに在住。
この書籍を作った人
1957年生まれ。東京外国語大学卒業。長編の翻訳に『弟の戦争』『ハーレムの闘う本屋』『ペーパーボーイ』『コピーボーイ』『ヒトラーと暮らした少年』『夢見る人』、絵本の翻訳に『夜のあいだに』『セント・ギルダの子』などがある。
磯崎 園子(いそざき そのこ)
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長として、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、絵本ナビのサイト内だけではなく新聞・雑誌・テレビ・インターネット等の各種メディアで「子育て」「絵本」をキーワードとした情報を発信している。著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)がある。