二册同時に刊行されさまざまな場所で話題になっている川本真琴さん初の絵本『ブリキの姫』『とうめいの龍』。
酒井駒子さんやマレーク・ベロニカにもあい通じる、読み聞かせもできるのにアートなこの二冊は、川本さんが昨年末書きためた5篇の連作的な絵本原作の中の2篇を気鋭のイラストレーター井ノ上豪さんが作画したもの。読み進めていくうちに自分の中の子ども心と、眠っていた生命力が回復するような”詩情のヒーリング力”あふれるこの二冊を、絵本界の大先輩・荒井良二さんが気に入ってくれました! 以下、荒井さんと川本さんの対談から一度ハマると、川本さんの音楽同様抜けられない川本さんの絵本ワールドの魅力に触れてみてください。
●『ブリキの姫』は出だしでやられましたよ。“ロシアよりもっと遠いところにあるブリキ工場かー!”と(荒井良二)
荒井:僕、『ブリキの姫』の出だしのところ好きでしたよ。
川本:本当ですか?
荒井:出だしでやられましたよ。“ロシアよりもっと遠いところにあるブリキ工場かー!”と思って、それで全部支配されちゃった。あとはどう持って行かれようともびくともしなかった。ロシアの先のブリキ工場しかもう頭になくて。
川本:ありがとうございます。
荒井:ハッピーエンドっていう考え方はなかった? 結末とか。
川本:ハッピーエンドにするかどうかは考えなかったです。
荒井:絵本って普通ハッピーエンドだけどね(笑)。
川本:そうなんですか!?
荒井:いや、でもそこに囚われることはないけどね。現在は絵本はハッピーエンドにしなきゃならないっていう、幸福感を与えるためのものみたいになっているんですよね。
─── 『ブリキの姫』はハッピーエンドの絵本ではないんですけど、川本さんの親戚のお子さんに読み聞かせをしたら、すごくはまったらしいですね。
川本:はい。荒井さんはじっさいにご自分の本を読み聞かせたことはありますか?
荒井:僕は読み聞かせっていうのがあまり好きではないんだよね。読むなら1対1が希望。読み手と聞き手のふたりの人数だと、絵本はふたりの世界を作り上げるわけよ。聞く人が多くても、やっぱり100人の絵本にはならない。1対1の間にある呼吸とか体温のぬくもりとか読み方とか、マイクを通しての声より肉声をこのままそばで聞くっていうのはだいぶ違うんじゃないかな。あとは読んでいる人でもだいぶ違うと思うよ。読んでいて楽しいって思いながら読んでいると、やっぱりそこが伝わってふたりの世界になる。ところで『とうめいの龍』っていうのはなんで龍だったの?
川本:私、全部で5話の話を作っていて。それの最後にできたものが『とうめいの龍』だったんです。最後はなんとなく日本の雰囲気の話がよくて。私の中でこのお話に水を入れたかったんです。龍って水に近い、水の神様みたいなところもあるじゃないですか。
荒井:雨とか雨粒とかが出てくるしね。
川本:最初はなかったんですけど、絵を描いてもらった井ノ上さんに草に水滴をつけてもらったりもしたんですよ。だから出てくる龍はおとぎ話の龍ではないんですね。もっと自分たちとか動物といっしょというか。
荒井:『とうめいの龍』を見る人はおぼろげながら龍ってとらえてくれると思うし、読者と作者を結ぶキーワードとして龍の存在ってあると思う。読んでみると“ 自分の思っている龍と違う、こういうふうな龍もあったのか”っていうふうに思うかもしれないから、そこがおもしろいところだよね。龍のイメージってみんなあるから、それをうまくとらえていると思うよ。