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川本真琴絵本作家デビュー作『ブリキの姫』『とうめいの龍』刊行記念 荒井良二×川本真琴特別対談

二册同時に刊行されさまざまな場所で話題になっている川本真琴さん初の絵本『ブリキの姫』『とうめいの龍』。
酒井駒子さんやマレーク・ベロニカにもあい通じる、読み聞かせもできるのにアートなこの二冊は、川本さんが昨年末書きためた5篇の連作的な絵本原作の中の2篇を気鋭のイラストレーター井ノ上豪さんが作画したもの。読み進めていくうちに自分の中の子ども心と、眠っていた生命力が回復するような”詩情のヒーリング力”あふれるこの二冊を、絵本界の大先輩・荒井良二さんが気に入ってくれました! 以下、荒井さんと川本さんの対談から一度ハマると、川本さんの音楽同様抜けられない川本さんの絵本ワールドの魅力に触れてみてください。

ブリキの姫

ブリキの姫
作:川本 真琴
絵:井ノ上 豪
出版社:プレビジョン

雪深い工業国で自転車の部品を黙々と作らされている、グリーンの瞳の少女エメラルド。夢の中でエメラルドの心の叫びを聞いたとある漁港の少女マミは、周囲の大人たちに訴える。
「ブリキのお姫さまを助けに行かなきゃならないの」
川本真琴が描く交錯する平行世界の絵物語『ブリキの姫』

とうめいの龍

とうめいの龍
作:川本 真琴
絵:井ノ上 豪
出版社:プレビジョン

日本のとある地方都市、とつぜんの雨に神社で雨宿りしていた少女は雷鳴と共に龍神前という駅に降り立つ。湧き水がある森を抜け、七色の草はらに出ると、そこには少女の願い事を聞く「とうめいの龍」がいた。
川本真琴が描く切ない祈りの絵物語『とうめいの龍』

『ブリキの姫』は出だしでやられましたよ。“ロシアよりもっと遠いところにあるブリキ工場かー!”と(荒井良二)

荒井:僕、『ブリキの姫』の出だしのところ好きでしたよ。

川本:本当ですか?

荒井:出だしでやられましたよ。“ロシアよりもっと遠いところにあるブリキ工場かー!”と思って、それで全部支配されちゃった。あとはどう持って行かれようともびくともしなかった。ロシアの先のブリキ工場しかもう頭になくて。

川本:ありがとうございます。

荒井:ハッピーエンドっていう考え方はなかった? 結末とか。

川本:ハッピーエンドにするかどうかは考えなかったです。

荒井:絵本って普通ハッピーエンドだけどね(笑)。

川本:そうなんですか!?

荒井:いや、でもそこに囚われることはないけどね。現在は絵本はハッピーエンドにしなきゃならないっていう、幸福感を与えるためのものみたいになっているんですよね。

─── 『ブリキの姫』はハッピーエンドの絵本ではないんですけど、川本さんの親戚のお子さんに読み聞かせをしたら、すごくはまったらしいですね。

川本:はい。荒井さんはじっさいにご自分の本を読み聞かせたことはありますか?

荒井:僕は読み聞かせっていうのがあまり好きではないんだよね。読むなら1対1が希望。読み手と聞き手のふたりの人数だと、絵本はふたりの世界を作り上げるわけよ。聞く人が多くても、やっぱり100人の絵本にはならない。1対1の間にある呼吸とか体温のぬくもりとか読み方とか、マイクを通しての声より肉声をこのままそばで聞くっていうのはだいぶ違うんじゃないかな。あとは読んでいる人でもだいぶ違うと思うよ。読んでいて楽しいって思いながら読んでいると、やっぱりそこが伝わってふたりの世界になる。ところで『とうめいの龍』っていうのはなんで龍だったの?

川本:私、全部で5話の話を作っていて。それの最後にできたものが『とうめいの龍』だったんです。最後はなんとなく日本の雰囲気の話がよくて。私の中でこのお話に水を入れたかったんです。龍って水に近い、水の神様みたいなところもあるじゃないですか。

荒井:雨とか雨粒とかが出てくるしね。

川本:最初はなかったんですけど、絵を描いてもらった井ノ上さんに草に水滴をつけてもらったりもしたんですよ。だから出てくる龍はおとぎ話の龍ではないんですね。もっと自分たちとか動物といっしょというか。

荒井:『とうめいの龍』を見る人はおぼろげながら龍ってとらえてくれると思うし、読者と作者を結ぶキーワードとして龍の存在ってあると思う。読んでみると“ 自分の思っている龍と違う、こういうふうな龍もあったのか”っていうふうに思うかもしれないから、そこがおもしろいところだよね。龍のイメージってみんなあるから、それをうまくとらえていると思うよ。

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荒井 良二(あらい りょうじ)

  • 1956年山形県生まれ 日本大学芸術学部芸術学科卒業。
  • イラストレーションでは1986年玄光社主催の第4回チョイスに入選。1990年に処女作「MELODY」を発表し、絵本を作り始める。1991年に、世界的な絵本の新人賞である「キーツ賞」に『ユックリとジョジョニ』を日本代表として出展。1997年に『うそつきのつき』で第46回小学館児童出版文化賞を受賞、1999年に『なぞなぞのたび』でボローニャ国際児童図書展特別賞を受賞、『森の絵本』で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。90年代を代表する絵本作家といわれる。そのほか 絵本の作品に『はじまりはじまり』(ブロンズ新社)『スースーとネルネル』(偕成社)『そのつもり』(講談社)『ルフランルフラン』(プチグラパブリッシング)などがある。2005年には、スウェーデンの児童少年文学賞である「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」を授賞。

川本 真琴(かわもと まこと)

  • 1974年福井県生まれ。1996年「愛の才能」(ソニーレコード)でデビュー。1997年発売のデビューアルバム『川本真琴』はミリオンセラーに。一時音楽活動を休止して以降、2010年アルバム『音楽の世界へようこそ』でふたたび川本真琴名義で活動を始める。2012年二册同時刊行の『とうめいの龍』『ブリキの姫』で絵本作家としてデビュー。

作品紹介

ブリキの姫
作:川本 真琴
絵:井ノ上 豪
出版社:プレビジョン
とうめいの龍
作:川本 真琴
絵:井ノ上 豪
出版社:世界文化社


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