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《スペシャルコンテンツ》インタビュー

2010.04.20

中村牧江さん、林健造さん
絵本『ありさんどうぞ』

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初めての絵本、『ふしぎなナイフ』

─── 絵本作家としてのお二人についても、少しお伺いいたします。最初の作品は『ふしぎなナイフ』。それまでお二人とも広告に関連するお仕事をされていたと思うのですが、絵本を描かれるというきっかけは何かあったのでしょうか?

ふしぎなナイフふしぎなナイフ

作:中村牧江・林健造
絵:福田隆義
出版社:福音館書店

中村牧江さん 中村:『ふしぎなナイフ』を制作していた頃は、本当に絵本業界とは全然関係なくて、広告の世界で仕事をしていたわけですね。林が、「絵本をやりたい」っていうことを常々、言っていたけれど、何となく聞き流していて。ただ「ナイフのフォルムがすごく美しい」「ナイフの形にひかれる」なんてことを言っているのは心にとまっていたんです。
何かの時に、それだったら、ナイフで絵本ができるんじゃないかなと思ったんですね。じゃあ、どうやったら絵本ができるかなって思ったときに、絵本のことは何にも知らないですからね。知らない強みというのもあって。

よく子どもがお膳に水なんかをこぼすと、すぐ手のひらでばーっと触りますよね。そうすると大人は「いけません」って言うけど、いたずらをしているんじゃなくて、全身で確かめているんですね、こぼした水の感触とかいろいろ。だから、もしナイフを持たせたらやっぱり、いろいろやるんじゃないかと。
ナイフに限らず、小さい時に、お茶わんをおはしでチンなんてやると、「そういうことをしちゃいけない」って叱られましたよね。大人が見ると、食器をおもちゃにしちゃいけない、というのがありますけど、子どもに、もし自由に手に持たせたらやっぱり、引っ張ったり、つまんだり、落としたり、試したいんじゃないかなと。最初はそういう感じで考えていて。さらにそれをもっとシンプルにしてったのです。
こういう絵本って今までなかったと思うんですけど、それは私たちがなまじ絵本は、こうあるべきだということを知らなかった故だと思います。

─── 確かに、視点や発想の出発点がちょっと違う気がしますね。

中村:だから、出版社に何社か持って行ったいきましたけど、みんな「駄目」って言われました。要するに、「こんなものあり得ない」といった感じですよね。
林:「ナイフなんて、危険だ」というのはね、よく言われましたよ。
中村:「言葉が少ないから、すぐおしまいまで行っちゃうじゃないか」とも言われましたね。お母さんは、「買っても損をした」と言うって。どんどんめくって、あ、ねじれる、はい、折れる、はい、すぐ終わりってなるから、「そんなものにお金出して買わないですよ」って言われたこともありますね。でも自分達は気に入っていましたから、めげずに何社も回って。
林:採用して下さった編集の方は、「いや、刺すナイフとこれは別のものだから」って、最初にそう言ったんですよ。「今までこういう風に言われたけども」と言ったら、「いや、それは違うものだ」「面白い」と言って。「これは作りたい」っていう結論が出たんですよね、その場で。
中村:それで、その頃は、林がリアルな絵を描くのにもう一つ自信がないっていうんで、福田隆義さんに描いてもらって。その方は広告の世界でリアルな絵を専門に描いていらしたんですよね。それでお願いをしたわけです。

例えば、自分では、「ほどける」っていうページが気に入っているんです。やっぱり子どものころに、昔、母親がセーターなんかを編んでくれるときに、古いセーターをほどいているのを、手で持たされて巻き取っていくような、そういう経験があったものですから、すぐに「ほどける」というのを思い付いたんです。
大きくなったり小さくなったりっていうのはそれこそ、『ガリヴァー旅行記』じゃないんですけど、視点を変えれば、すぐに関係は逆転するわけですよね。それで「ちぢんで」っていうようなことを思いついて。

─── この絵本は発売されてから20年ぐらい経っていて、いまだにすごく人気があって、沢山の反応があるかと思うんですけど。そういう状況について、どう感じられますか?

中村:それは、もの凄くありがたいことですし、励みにもなるし、やっぱり嬉しいですね。何て言うんでしょう、ささやかな幸せを感じますね、そういう声を読んだときにね。作った時は、そういうことも何も考えていなかったんです。ただ自分たちで気に入っっていたというだけで。
 今までのレビューの中で、一番嬉しかったのは、どなたか忘れましたけども、お母さんだったと思うのですが、「この世の中に、こういうくだらないことをまじめに考えている大人がいるっていうことが、すごく嬉しい」とあったんですよ。「ばかなやつね」って言って下さって愛して下さっている、という感じがとても嬉しかったんです。

子育てと絵本と・・・

─── 絵本を制作される時のヒントとして、ご自身の子どもの頃の記憶の他に、子育ての経験も影響されているのでしょうか?

中村:自分が小さかったときの記憶と、自分が子育てをしたときの記憶、両方ですね。『てをみてごらん』は、子どもを、公園に連れて行った時に、ちょうど桜の終わりかけの季節で、花びらがバーッと散ってきたんです。そうしたら、何度も子どもが手で受け止めようとして、そのときに、「ああ、子どもってこういうことするんだ」と思って。必死でこうやって受け止められないんだけど、一生懸命こうやって、そういうイメージですね。だから、やっぱり自分の経験した事と、子どもってそうなんだっていうのが、基調になっているんですね。

てをみてごらんてをみてごらん

作:中村牧江
絵:林健造
出版社:PHP研究所

─── その作品でもやっぱり、言葉と絵が同時に浮かびあがって?

中村:ええ。ほとんど同時進行ですね。アイデアというものが浮かんで、それで全体の構成っていうのか、流れが同時に浮かんでくるんです。すると(林さんが)紙で上手に作ってくれる。前に、何か紙でやっていたなということを知っているから、「これを紙でやらない?」みたいに持ちかけると乗ってきてくれて、それできれいな手を紙で作ってくれるっていう感じでしたね。

─── そうやって、どんな絵を描くのかなっていうのを熟知されていて、アイディアの段階からもう組まれているっていうのは凄ことですよね。そんな林さんにとって、絵本というのは、もともと意識はされていたんですか?

林健造さん 林:(絵本を描く前は)僕はデザインをやりながら、生活を含めてね、一生懸命仕事を覚えるとか、いい仕事をしようと広告の方に夢中になっていましたね。
一方で、書店に行った時に、自分の為に買ってきた絵本3冊がありましてね。日本の作品ではなかったんですけど。自分が絵本を作れるとは思わなかったんですけど、楽しむほうならいけるだろうなと思って。広告の仕事と絵本はちょっと距離があったという事もあって、一般的な感覚で「これは面白い」というのはありましたね。魅力は感じていたんですよね。(その選んだ絵本も)いい絵本でしたしね、展開も面白い。展開がいいっていうのは興味を惹きますね。広告の仕事をやっていたというのもあるのかもしれないけど、1枚のこの画面で見てっていうんじゃなくて、次はこの流れで、何もないけど、前との関係でいいとかね。そういう特性みたいなものが絵本の中にある面白さというのか、最後に閉じたときに、「何か、よかったなあ」という感じがありましたね。

中村:と言いつつもね、自分の子どもが絵本を読む年ごろのときに、殆ど読んでやったことないんですよ。
一同:そうんなんですか (笑)。
林:自分がね、やりたいことがね、そのときは目いっぱいあったんですよ。それは、言い訳かもしれないね。

中村:私はもう、母親ですから。私はけっこうたくさん読んでやっているんですね、子どもに。あとは紙芝居なんかも、よく図書館で借りてきてやったりしてね。
それが、子どもが幼稚園なんかに行きはじめて、忙しさが一段落したころに、林が「絵本を作りたい、作りたい」って言いだして。言うだけだけだったの、それも。実際、子どもに絵本を読んであげていないし、買ってこないしっていう人が、何で「作りたい、作りたい」って言うのかなっていうようなね。でも、そんなに作りたいんだったらやっぱり、この人が興味を持っている世界というのはある程度分かりますから、そのなかで、何か考えればできるんじゃないかみたいな、そういう感じですね。
林:自分だけが楽しみたいという気持ちがありますし、身内のほうは何となく照れくさいですよね。
中村:わが子に絵本を読むのが照れくさいって。ねえ。
一同:(笑)。

─── 絵本の制作は、お子様が少し大きくなられてから?

ええ、そうですね。上の子が小学生で下の子が幼稚園ぐらいだったと思います。それでも子どもの反応を見ながら作る、そういうゆとりはなくてね。それよりは、自分たちが面白いなと思うものを作っていましたね。ですから、子どもが生まれたことで作品内容が変化したっていう事はなかったですね。

絵本づくりのおもしろさ

─── 絵本をつくられるようになって、一番面白い瞬間というのはありますか?

中村:それはやっぱり、自分が何かのアイディアを言ったときに、乗ってきてくれた時ですね。もしかして独りよがりかも分からないけども、自分がいいなと思って、こういう感じで、こういう構成で、こういうふうに使ったらどう?って言って。「あ、それ行こう」という風になった時。何か出来そう、生まれそう、という時ですね。
林:逆もありますよ。僕が、「絵の面白いの、考えたんだけどな」と言うと、「面白くないねえ」って言われて(笑)。そういう時はね、どんなにしてもね、そこはもう絶対に駄目でね。面白いと思っているのになあ、って言うのは沢山ありますよ。
中村:やっぱりほら、どうでもいいアイディアでも、他人だったら、よく考えてから言おうとかっていうのがありますよね。だけども、身内だからって、お互いにちょっと一言つい言っちゃうと、「ええ」って、「よくそんなこと言うわね」って(笑)。

─── お二人の視点から見る絵本というものの捉え方は、他の作家さんとはまた違うのかなと思うのですが。

中村:そうですね、優秀な絵本作家の方っていうのは、子どもというものをよく分かっていらして、こういうふうにしたら子どもが喜ぶだろうとか、こういうふうにしたら受けるだろうってすごく心得ていらっしゃる。私たちはいまだに分からないようなところがたくさんあって、案外と自分が子どもっぽいようなところから入っていくんです。こうしたら子どもの為になるとか、こうしたら今の子に受けるという風にはあまり考えない、考えられないんですよね。そういうのを度外視したところで、自分たちが面白いかどうかで作っているみたいなところがありますね。

─── なるほど。では、今後こんな絵本を作ってみたいというアイデアは、たくさんあるのでしょうか?

中村:やっぱり、その時まかせなんですよね。だから分からないんですよね。そこがやっぱり、絵本作家っていうことではないと思うんです。いまだに何て言うか、絵本作家なんて言われると、そんな大それた存在じゃありませんていう感じで、自分で引いちゃいますね。
林:シリーズとか、続きものはあんまり出てこないかもしれません。1冊1冊がその時によって生まれてくる作品ですから。プランも違いますけど。それに、全然違うものをやりたいなという気持ちはいつもありますね。

絵本ナビ読者の皆さんへ・・・

─── 最後に、絵本ナビ読者の皆さんに向けて、簡単なメッセージをお願いできますか?

中村:絵本って、長くても開けている時間はせいぜい5分ぐらいですね。でもその5分の間に、お母さんと子どもなのか、お姉ちゃんと弟なのか分かりませんけど、誰かと誰かがちょっとだけ楽しい、ちょっとだけ違う世界に入り込めるっていう、その事が一番嬉しいですよね。見知らぬ誰かが、どこかでそういう時間をほんの5分持ってくれるっていう事が。その事が喜びというか。だから、こう読んでくださいなんて、そんなことは全然もう思いません。とにかくほんのひと時だと思うんですけど、どこかの誰かがちょっと、目と目を合わせてニッコリしているっていうことがあったら、もうそれで十分、それ以上は何にもいらないという感じですね。

─── 林さんはどうでしょうか?

中村さん林さん 林:うーん、思い付かないねえ。
中村:見てくれる人がいれば幸せっていう。
林:そう、それですね。
一同:(笑)。

ありがとうございました!

インタビューの内容からも伝わっているかと思うのですが、とにかくお二人の呼吸がぴったりといいますか、面白いといいますか(笑)。笑いの絶えない、楽しくて優しい時間を過ごさせて頂きました。
タイプは全然違えど、広告や美術の世界の第一線で活躍されてきたお二人。同時に「これは面白い」と思われた瞬間に、新しい作品が生まれてくるというのが、とても新鮮で印象的なエピソードでした。

記念撮影 最後に記念にぱちり。

今回取材にご協力頂いた、編集の方にとっても、お二人の存在は特別だったそう。大人になってから出合った『ふしぎなナイフ』という絵本に衝撃を受けられて、いつかお仕事ができればと思っていたそうなのです。『ありさんどうぞ』のラフを見た時に、お二人ならではのデザインセンス、子どもにこびたところがない、そういう部分がやっぱり魅力なんだと改めて思って、「これは是非やらせてください」とおっしゃったそうです。
そんな大切なこの一冊もまた、世代を超えて子ども達に親しまれていくといいですね。

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中村牧江【なかむらまきえ】

  • 東京都生まれ。コピーライターとして、コピー宣伝会議賞銅賞、準朝日広告賞、日経広告賞最優秀賞、東洋経済広告優秀賞などを受賞。日本産業広告賞、毎日公共福祉広告賞など入選。ガイドブック『るるぷ』(JTB)ネーミング。
    絵本作家として、林建造氏との作品に『ふしぎなナイフ』『もしゃもしゃ』(福音館書店)、『ちがうのだあれ』『ちかくにいるのだあれ』(ひさかたチャイルド)『てをみてごらん』(PHP研究所)『都市の人びと』(イーテキスト研究所)、『ありさん どうぞ』(大日本図書)がある。

林健造【はやしけんぞう】

  • 愛媛県生まれ。グラフィックデザイナーとして、準朝日広告賞、カレンダー工業技術院長賞、日経広告賞最優秀賞などを受賞。ワルシャワポスタービエンナーレ、セントラル美術館版画大賞、毎日公共福祉広告賞など入選。装丁家として書籍を多数手がけ、絵本作家として中村牧江氏との作品に『ふしぎなナイフ』『もしゃもしゃ』(福音館書店)、『ちがうのだあれ』『ちかくにいるのだあれ』(ひさかたチャイルド)『てをみてごらん』(PHP研究所)『都市の人びと』(イーテキスト研究所)、『ありさん どうぞ』(大日本図書)がある。


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