●子どもの誕生によって変わった、絵本へのアプローチ
─── ここからは新井さんご自身のお話も少し。絵本作家さんになられたきっかけは何かあるのでしょうか?
実は、子どもの頃はそんなに絵本に触れてなかったのです。
絵は3歳くらいからずっと描くのが好きだったんですが、文字が読めるようになってから好きになったのは、実は児童文学でした。
その両方の流れが大学時代に重なって、自然と絵本作りに興味を持ち始めました。
大学卒業後は6年ほど企業のデザイナーとして働いていたんですが、学生時代に憧れた絵本の世界にどうしてもチャレンジしてみたくて、自分の作品を出版社に持ち込んだのがデビューするきっかけでした。
▲こちらが出版社に見てもらった初期の作品だそうです!
─── その時の編集者さんの反応はどうでしたか?
それが、あまりよくなくて…(苦笑)。
「目がチカチカする」「絵が強すぎる…」といわれました。
今思うとそれも当然で、その時僕が作っていた作品は全然子どもに向けたものじゃなく、僕が好きだった海外絵本作家を意識した作品だったり、パソコンを使ったグラフィック的な絵本ばかりで、それがいつか認められる日が来れば…と思っていました。
でも、その考えは子どもが生まれて180度変わりましたね。
僕は書店の絵本売り場で絵本を子ども達に届けたいのに、そこに置かれない絵本を作るのはミスマッチだぞ…って。
そこからですね、作品のアプローチが変わってきたのは。
まずお母さんと子ども達が喜んでくれて、さらに書店さんも、出版社の編集さんも喜んでくれるものが僕の絵本でできたら…と思うようになりました。
─── その思いから生まれたのが『れいぞうこ』や『おしいれ』など、「あけてあけてえほん」シリーズなんですね。
はい。
『れいぞうこ』と『おしいれ』は電車の中で思いついたアイディアなのですが、読者の方から、「子どもが「はーい!」と返事をしてくれるようになりました!」という感想をいただいたりと、とても反響の多いシリーズになりました。
この「あけてあけて」シリーズや『ころころぽーん』は、デビューしたての頃に出会った編集者さんと一緒に作ることのできた作品なので、僕自身すごく思い入れの強い絵本でもあります。
「こんなに立派になりました」…じゃないですね(笑)、「ここまでやって来れました…」とその編集者さんに報告している感じです(笑)。
4月には新しく『なかみはなあに?』と『のっているのはだあれ?』が発売となりました。
こちらも親子で当てっこ遊びをして楽しめます。オススメです(笑)。
─── 新井さんの作品は、子どもと一緒に遊びながら楽しめるものばかりですよね。
新井さんが絵本や児童文学がお好きだという事は、本棚を見ているだけでも伝わってくるのですが(笑)・・・影響を受けた作家さんや作品にはどんなものがありますか?
…何人くらいあげて良いですか?(一同笑)
えーっと、アメリカの絵本作家バーバラ・クーニーの作品はどれもすごく好きで、僕の最初の作品『ソケットと おとの まほう』はバーバラ・クーニーの『わたしは生きてるさくらんぼ』という作品と同じ大きさで作りました(笑)。
─── すごい! 本当に同じ大きさですね!
あと、トーベ・ヤンソンとA・A・ミルンは子どもの頃に出会ってからずっと好きな作家です。
作品の名前だけ挙げるとすると、『かいじゅうたちの いるところ』や『三びきのやぎのがらがらどん』、『もりのなか』…。
定番でクラッシックといわれている絵本が好きですね。
─── 日本の作家さんではどうですか?
林明子さんの『おつきさまこんばんは』や、せなけいこさんの『ねないこだれだ』が好きです。
僕、絵本の最初のフレーズにすごくこだわっているんです。それがその絵本の決定的な決め手になるくらい、自分の作品でも導入に合うフレーズをいつも探すんですが、『ねないこだれだ』の「とけいがなります ぼんぼんぼん」がまさに理想です(笑)。
それと今、同年代の絵本作家さんがどんどん活躍していて、彼らの作品にはいつも刺激を受けていますね。
─── 確かに、最近30代40代の絵本作家さんが大活躍されていますよね。特に仲の良い方とかいらっしゃるんですか?
絵本作家さんに知り合いがあまりいないのですが、絵本作家の小林ゆき子さんとは仲良くさせて頂いています。
他の人たちとは数回お食事したりしているだけですが、どの方も大好きです。
この間、高畠那生さん、よしながこうたくさん、鈴木のりたけさん、なばたとしたかさんと一緒に集まって、食事をしたんです。本当に個性的なメンバーで(笑)。
年齢や絵本作家としてデビューした時期は近いけど、作品のタッチや向かっているところがそれぞれ違う人達だったので、面白くて時間があっという間に過ぎてしまって…。もっと絵本について深い話をしたかったなって思いました。
─── 「若手絵本作家座談会」なんていう企画が絵本ナビでもできたら・・・いいですねぇ!ワクワクします。
それでは最後に、(子育ての先輩としても)絵本ナビ読者の皆さんにメッセージをお願いできますでしょうか?
赤ちゃん絵本を子どもが楽しめる時間って、0、1、2歳の3年間くらいと、すごく短いんです。その3年間ってその子が見て感じている世界と、大人が見ている世界には大きなギャップがあるはずなんです。でも一緒に絵本を味わっている時は、子どもを通して大人も0歳や1歳の頃に戻ったような気持ちになれる。
それが体験できるチャンスを逃すのは非常にもったいないと思います。
5歳くらいになると、もう大人と同じ絵本の見方になっちゃって…。
それはそれで物語絵本を読む楽しみが生まれるんですが、赤ちゃん絵本が味わえなくなるから、「パパ、もう(赤ちゃん絵本は)読まなくて良いよ」って言われるんです。それがスゴイショック…。「あんなに、楽しかったじゃないかー!」って(笑)。
だからその3年間は、親子でいっぱい赤ちゃん絵本を楽しんでほしいと思います。
─── ありがとうございました!
(編集後記)
じりじりと焼け付くような暑さの中お伺いした新井さんのご自宅兼アトリエ。高台にあるため非常に見晴らしが良く、時々、遠くにJRの電車が通る様子がちらっと見ることができるという最高のロケーションには、電車好きのスタッフも思わず感嘆の声をあげていました。
アトリエ内には、新井さんの大好きな絵本やアートブックに混ざって、フィギュアやオモチャなども飾ってあり、どれをとっても気になってしまうコレクションばかり。新井さんがとても嬉しそうに話してくださるので、本当は一つ一つじっくりと質問したかったのですが、時間には限りがあります。そこはぐぐーっと我慢しながらの取材となりました(笑)。
最後に「何か言い残したことはありますか?」とお伺いしたところ、「このモジャモジャヘアーは100%天然です・・・と最後のスペースに入れて下さい。」とのこと…。
しっかり入れさせていただきました(笑)。
次に新作が出る時には、絵本ナビオフィスにも遊びに来てくださると約束をしてくださいましたので(!)、楽しい話の続きはその時までのお楽しみということで…。
(編集協力:木村春子)