●真珠さんにお願いして、作品がグッと絵本に近づきました
─── サトシンさんと前田さんの発案に、真珠さんや作曲家の方が応える形で始まったプロジェクトですが、実際にスタートして大変だったことは何ですか?
サトシン:そうですね。歌と絵本を一緒に作りながら、お互いに整合性を持たせるというのがちょっと大変でしたね。僕が絵本を作るときは、まず企画を作って、テキストを作って、出版社や画家さんとやり取りをして改めてテキストの微調整をするんだけど、今回は最初に絵本と音楽を結んだ形にするというフレームを決めて、絵本に適した素材の作り方やビジュアルのテーマを前田さんに振って、出来上がった詩を真珠さんに渡して意見を聞いて、さらにそれを前田さんに伝えて再考してもらう…という調整をしながら、全体をまとめて行く作業でした。
─── サトシンさんは今回、プロデューサー的な動きをされていたんですね。
サトシン:はい。だからテキストを見ると、いつもの僕らしくないんじゃないかな(笑)。
─── 真珠さんは絵を描く中で大変だったことはありますか?
真珠:最初に詩を見せてもらったとき、そのまま絵本として絵を描くのは難しいな思ったんですね。それで絵本としていい形になるように色々お願いしたり、提案を伝えたりしました。
─── 例えば、どんなところをお願いしたのですか?
真珠:ひとつは四季をいれてほしいというお願いです。絵本には変化があったほうが見ていて楽しいですし、長い月日がたったという部分がビジュアルで分かりやすいですから。それに季節があったほうが、読者のみなさんに自分の思い出と重ねて、共感してもらいやすいのではと思いました。
あとは「さんぽのき」の木のモデルをどうするかという部分です。歌では多少のフィクションがあっても、この絵本の場合、実際にある木をモデルにしたほうが良いと思ったんです。最初の歌詞では「さんぽのき」は、花が咲いて、子どもたちが木登りをして遊べるくらい大きく育って、実のなる木という設定だったんですが、それに合う木を探すのは難しかったです。
─── 真珠さんの中でぴったりの木は見つかったんですか?
真珠:桂の木をモデルにしました。葉っぱがハートの形で可愛くて、新緑も爽やか、黄色く紅葉するのもすごくきれいで、毒虫もあまりつかずかぶれずで木登りもOKだし、大きいものでは30mほどの大木に育つそうです。食べられる実はならないですが…。
比較的公園にもある木なので、子どもたちにも身近に感じてもらえるんじゃないかと思いました。
サトシン:真珠さんが入ってくれたことによって、木と男の子の関係がグッと深くなりましたね。最初の詩では、木はもっと背景的で、振り向くといつもそこにあるというの存在だったんです。
─── 僕は、「いっぽ、にほ、さんぽ さんぽのき」というフレーズがとっても好きなんです。
真珠:良いですよね〜(笑)。私も大好きです。そのくり返しのリズムが、この本の良さになっていると思います。前田さんが「いっぽ、にほ、さんぽ さんぽのき」というフレーズが、あるとき「ふっと頭に浮かんだ」って言ってるのを聞いて、前田さんは才能がある人だなって思いました。
サトシン:この「いっぽ、にほ、さんぽ」は「ホップ、ステップ、ジャンプ」のように、明るく飛躍するような意味で読者の方に響いてほしいという意図があったので、そういってもらえると嬉しいです。
─── この絵本の一番好きな場面、アピールしたいところはどこですか?
サトシン:僕は一番最後の画面ですね。一番言いたいのが端的に伝わるところです。
真珠さんはあれでしょ?寒いところじゃない?
真珠:なんで分かるの…(苦笑)。確かに、絵で一番すきなのは冬の場面ですけど…。自分は全部に思い入れがあるので、なかなか一つには絞れないですね。
サトシンさんが気に入っている、最終場面の裏話をちょっとしますと、前田さんの詩に「実を食べた鳥が飛んで行った先でうんちをして、その中に入っていた種が芽吹いて、また命をつないでいく」というようなことが書いてあったんですけど、絵本にするときに削ってしまって…。私はそこが好きだったので、最後の鳥たちが飛んでいった先で、さんぽのきの種が芽吹いた様子を後ろに描きました。
─── 絵を描くときに悩んだところはありますか?
真珠:色の付け方をどうするかで悩みました。何回も近くの公園に行って、桂の木を見て考えたりして。回想シーンでは、たくさんの色を使わず、できるだけその季節のイメージカラーのみで仕上げることにしました。ほとんど緑ですが、春は黄緑。秋は黄色。冬は青。あのとき何色の服を着ていたとか、思い出の細かいところまで人は覚えてないんじゃないかなと思ったので、子ども時代の服には色をつけずに白にして、現在のシーンのみ、服に色をつけました。