●『さんぽのき』が被災地への架け橋となってくれました。
─── お二人は「さんぽのき」の印税を全額と、売り上げの一部を被災地へ寄付する形でこの作品を作られたと聞いて、とてもビックリしたんです。このことは最初から考えていたことなのですか?
サトシン:それは最初から考えていましたね。
真珠:最初、気を使っていただいて、「真珠さんは大変だから全部じゃなくて良いよ」って言っていただいたんですが、やっぱり皆でひとつのプロジェクトとして作ってますし、「全てを」の方が分かりやすくていいと思ったんです。
─── 『さんぽのき』を作ったことで、被災地支援などでご自身の中で変わったことはありますか?
サトシン:そうですね…。この本のおかげで被災地へ講演会に呼ばれたり、気仙沼にあるあおぞら書店さんに行くことができたり、活動が広がってくれたことが大きいですね。
被災地では今も本買うどころじゃないと思うけど、買ってくれるんですよ。一度、理由を聞いてみたんですけど、あるお母さんが「子ども達もいろんな大変な場面を眼にしている。だからこそ、親子のコミュニケーションを大切にしたいから、絵本を買うんです」って言われたんです。その言葉で僕自身、すごく救われた感じがしました。
真珠:私は講談社のおはなし隊と一緒に、宮城県亘理町の保育所に行きました。津波で大きな被害があった地域です。そこの子どもたちのために何かできたらと皆さんにご相談して、さんぽのきプロジェクトから、仮設住宅で暮らす荒浜保育所の子どもたちに、絵本と本棚のクリスマスプレゼントを贈らせていただくことができました。とても喜んでいただけて、私もうれしかったです。仙台の絵本とおもちゃのお店、横田やさんにご協力いただきました。また子どもたちに会いにいきたいです。
─── さんぽのきのCDではお二人も歌を担当されていますよね。聴かせていただいたのですが、子ども達も一緒に謡っていて、とても暖かい気持ちになれる曲ですね。
前田さんをはじめとした皆さんでの歌の活動はされているんですか?
サトシン:今まで2回、ライブでは歌っているんですよ。
真珠:演奏している人たちがすばらしくて、私のHPで詳しくご紹介してるんですが…(サトシンさんに)見ました?
サトシン:いや…。
真珠:見てください!いろんな音楽ジャンルの第一線で活躍されているメンバーが集まって、本当にすばらしい演奏なんです。
サトシン:そうそう、音楽の話をしますと、作詞家の前田さんは安室奈美恵さんをはじめとしたアーティストの詩を書いている方で、作曲家の外山さんは、バークリー音楽大学を主席卒業してTVの曲をたくさん作られた方、もう一人の安田信二さんは、嵐や森高千里など、J-POPを多く作曲している方なんです。演奏は彼らのお友達、「魅惑の音楽団」が担当してくれて、一般的なJ-popが7〜8トラックを使って作られる中、この曲は40トラックくらい使って録音しているんですよ。
だから、歌唱はへったくれなんだけど(笑)、クオリティはめちゃくちゃ高いです!
真珠:作曲家の外山さんはこの曲を小中学生向けの合唱曲にして、多くの方に歌ってほしいとおっしゃっていたので、そんなふうにも広がっていければ良いなと思います。
実は、この『さんぽのき』のメロディと同じメロディの「ヤダ…僕らは負けない」という歌がありまして元々はその歌を最初に作ら れていたそうです。そちらの歌詞は、前田さんの思いがストレートに伝わってきます。どちらも胸に響くいい歌です。
サトシン:そうそう。「さんぽのき」と「ヤダ…ぼくらは負けない」、なかよしきょうだいのように、一緒にいろいろなところに広がってほしいよね。
─── お話を伺って、さらにこの作品のすごさ、多くの方の思いを感じることができました。
最後に『さんぽのき』についての思いを一言でまとめてください。
サトシン:まとめるとですね…、やっぱりこれが全体を通してのコンセプトでもありますけれど、人は、街であったり人であったり、思い出であったり、拠り所があると元気になれ、明日に向かって進めるって部分がありますよね。そんな思いを「さんぽのき」に込めて表現したつもりなんですけど…、歌と絵本という表現の形でそういう気持ちに寄り添いながら皆さんと一緒に前に進んでいけたら嬉しいかな…。
真珠:一言って言われてるのに…(笑)
サトシン:……って言うことを……短めに(笑)。
─── でも、これがコアメッセージですものね。
サトシン:「忘れられずに長く愛されるものにして行きたいな」…と(笑)。
真珠:この本を読んで楽しく爽やかな気持ちになっていただけたら良いなと思っています。
─── ありがとうございました!今後のお二人の作品も楽しみにしています。
(おまけ)
─── お二人に今後の作品について、イチオシを教えてもらいました。
サトシン:今年…また新しい本が沢山出てきます。常に「The Best is Yet to Come(ベストなものはこの次の作品)」という気持ちで臨んでいます。
真珠:「もったいないばあさん」については、今の時代に必要なメッセージを伝えるおばあさんだと本気で思うようになり、もはやライフワークです。
これからも絵本を通して、そして世界の問題を伝える活動の場でも、大切なメッセージを伝えて行きたいと思います。今回の『さんぽのき』のように、やわらかくてやさしいタッチのあたたかい絵本も、もっとたくさん作っていきたいです。
(おまけ2)
─── 『さんぽのき』を出版した文溪堂の編集担当さんにもこの本にこめたメッセージを伺いました。
最初、サトシンさんと前田たかひろさんからこのプロジェクトのお話を伺ったとき、東日本大震災について、会社としても何かやりたいと思っていたので、とてもいいお話だと思いました。しかし、出版社としては、震災応援オンリーの話になってしまっては、役目を終えたときに一緒に本も価値を失ってしまうという状況は避けなければなりませんでした。なので、その冠が取れたときでも生き残って行く作品を作ってほしいと思い、お二人にそのお話を伝えました。それと、当初は、真珠さんのお話にもあったように、「歌」の比重が大きく、絵本はブックレットで、歌詞と絵本のテキストと全く同じもの…ということだったのですが、それも「子どもの本の出版社」である弊社としては受け入れられないもので、歌詞をベースとした「物語」「ストーリー」絵本を作っていただきたいともお願いしました。
それをみなさんが本当に真摯に受け止めてくださって、結果、絵本と歌、連動しつつも、それぞれひとり立ちしながら、長く読者に寄り沿うことのできる作品が出来上がったと思います。
(編集協力:木村春子)