●シマフクロウや流氷は生まれながらのテーマ
─── 手島さんの作品は、デビュー作『しまふくろうのみずうみ』から一貫して北海道の自然の中で力強く生きる動物たちを描かれており、その迫力と美しさに圧倒されてしまいます。そして、その印象的な場面の数々や鮮やかな色彩を演出しているのが木版画。版画家として活躍されていた手島さんが、絵本を通して表現されることになったきっかけを教えてください。
昭和56年(46才)に自分の所属している美術団体、日本版画協会展(4月・東京上野美術館)で発表したシマフクロウが夜の湖で魚をとっている版画作品が出版社(福武書店)の編集者の目にとまり、絵本づくりの企画が生まれました。
対象を幼児から老人までの広い範囲とし、木版画の美しさを特徴とする絵本とした、童話、童画にならないリアルな自然のままの世界を表現することをねらいました。
また作者が北海道の人間であることも企画の条件でした。
─── 制作される時、実際に実物の動物を観察して描かれているのでしょうか。また、完成までにはどの位の時間がかかるものなのですか?
実物を見る機会も作りますが、細かい部分などわからないところもありますので、写真やハクセイを見ることも大切にしています。 構想と下絵づくりに3〜4ヶ月、版画づくりと刷り上げに3ヶ月をかけます。木版画なので時間がかかりますね。
1頁につき版木は4枚必要です。全頁で版木70枚(55cmx39cm)を彫り上げます。
─── 北海道の厳しい自然を舞台にしているのは、やはりご自身の子どもの頃のご経験が影響されているのでしょうか。また思い入れのある動物はいますか?
私は北海道の北見オホーツク管内の生まれで、父が鉄道員で転勤が多く、私が22才になって親からはなれるまでに7回の転勤がありました。その土地はすべて田舎の土地で、農村4回漁村3回(オホーツク海)で市や町の生活を知らずに育ちました。ですので、シマフクロウや流氷は生まれながらのテーマです。
私は中学校の教師を20年間勤め42才で木版画家として独立したのですが、当時画家はパリやニューヨークで若い時研修するのが当然と思われていた時代でした。
私はその逆を行く形で北海道の世界を木版画で行く事に賭けをしました。北海道にしか生息しないシマフクロウの原始的で神秘的な姿が私の絵の原点です。
─── 手島さんの作品の中で、例えばシマフクロウが羽を広げている場面を見ると、自分の知らない自然の大きな力を感じて畏怖の念を抱くほどです!描かれている動物は、どれも本当に魅力的なのですが、読んでいると不思議と胸にせまってくるものがあり、生きる力をもらえるようです。
動物を主人公とした絵本はたくさんありますが、多くが動物が擬人化されたぬいぐるみのように可愛い姿であり、ストーリーも童話になっているものが多いようです。
私の絵本は童画にならず童話にならない現実の世界や自然をふまえた世界の表現に心がけています。
動物の生きる姿の美しさ、力強さ、そのバックの大自然の息吹きが私の絵本のテーマです。