「ドラゴン」に会ってみたいと願う子どもたちがいれば絶対おすすめしたい「ヒックとドラゴン」シリーズ。
主人公のヒックはいたって平凡なバイキング。唯一の特技はドラゴン語を話せるということ。これまで相棒のドラゴンとともに数々の危険に立ち向かってきましたが、今回目の前に立ちはだかるのは、人間対ドラゴンの全面戦争。目指すは、一年にたった一度の「運命の冬至」の日までに、失われた宝を取り戻し、真の新王となること。新王が現われない限り、強大化するドラゴンに立ち向かう術はなく、人類の未来はないというのです。この巻は、ヒックが率いるドラゴンマーク軍と、フュリオス率いる最強のドラゴン解放軍、さらには王の座を狙っている悪者アルビンと魔女のエクセリノール率いるアルビン軍のすさまじい戦いの記録です。
ヒックとともに戦うのは、ひょろひょろで詩人になるのが夢だという親友フィッシュと脱出が得意な小さな女の子カミカジ、そして相棒のドラゴンたち。途中でいとこのスノットが加わろうとしますが、ヒックやフィッシュは長い間スノットからいじめられ、ひどい仕打ちを受けてきたため、スノットが敵か味方か判断がつきません。「人は変われる!でも信じてあげないと、変われないんだ!」「だれにでも、チャンスはあげないと。なんどだってね」そう言ってどこまでも仲間を見捨てないヒックとスノットとのやりとりは、この冒険物語に深みを与えています。決して力は強くないけれど、仲間思いで何が大切なのかを知っているヒック。真のヒーローにとって大切なものは何なのか、バイキングの頭の跡取りとして生まれたヒックが真のヒーローになるまでの心の成長にも注目です。
シリーズの大きな魅力は、物語の中だからこそ出会えるドラゴンの圧倒的な存在感。血なまぐさい恐ろしいドラゴンもいれば、かっこいいドラゴンがいたり、ヒックの無二の相棒トゥースレスのように、ちょっとワガママだけれど愛嬌たっぷりのかわいいドラゴンがいたり…さまざまなドラゴンに出会えるところにワクワクさせられます。ドラゴンの恐ろしさ、攻撃、スピード、大きさ、反抗度が数字で表される「ドラゴンデータ」のページも楽しみの一つ。作者の想像力と表現の豊かさによって、ドラゴンの質感や量感がまるで触ったかのように生々しく伝わってくるのです。物語を盛り上げる豊富なさし絵は、絵がとても上手な友達が書いたかのような筆致で、親近感がわくのも魅力です。
さあ、一度ページを開いたら…、息つく間もない勢いで物語はクライマックスへと進んでいきます。ヒックは、失われた宝を取り戻して新王となり、人類を救うことができるのでしょうか。気になるその結末は、次の12巻に託されています。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
人間対ドラゴンの全面戦争。このまま人類はドラゴンにほろぼされてしまうのか……。人類の命運が決まる〈運命の冬至〉まで、あと4日。ヒックは、失われし宝を取りもどして、人類を救うことができるのか?
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