小学五年生のリリコは、病弱でいばりやの兄モル、美貌の姉ウララ、やんちゃな弟ティル、ピアノの天才の妹キララ、に挟まれた五人兄弟の真ん中っ子。個性的な兄弟の中で、何の特徴もない自分にコンプレックスを抱きながら暮らしています。小学一年生の時に初めてできた、理解しあえる本当の友だち「スーキー」。しかし「スーキー」は、二年生の時に突然外国に引っ越してしまい、五年生の今まで連絡が取れない状況が続いています。また気になる存在の男の子「トビー」。騒がしい子たちの中でひときわ落ち着いていて、学校に迷い込んだのら犬「クロ」を雨の中助ける姿を見て以来、リリコはひそかに憧れるようになったのでした。
兄弟ひとりひとりに対する思いや、「スーキー」と会えない淋しさ、「トビー」への思い、周りの大人への不信感と嫌悪感、そして大人になることへの不安…さまざまな思いが押し寄せ、ぐるぐると眠れない夜、リリコは、部屋に飾ってあるジョルジュ・デ・キリコの絵の中に、「スーキー」と似た女の子の姿を見つけます。思わず両手を伸ばし追いかけようとした瞬間、からだがすうっと引っぱられ、絵の中へ。リリコはそこで汽車に乗り、ふしぎな旅へと出発します。旅の中でリリコが見るのは、いつかの記憶から呼び起こされる事象や、どこか知っている人の姿、心の中に抱えているモヤモヤした感情…。その1つ1つと向き合い葛藤しながら、リリコの心には少しずつ変化が…。
リリコが見る幻想的な世界に、はじめは戸惑いを覚えるかもしれません。しかしお話にどんどん没頭していくと、この感覚はどこかで知っているような…という気持ちになっていきます。時間軸のない世界、幻想的な風景、不思議な形で現れる人物…。それは、よく私たちも見ている夢の世界と似ていて、だんだんまるで自分も夢の中にいるかのような錯覚に陥っていくようです。その中で、複雑に揺れるリリコの心情はリアルに胸に迫ってきますが、やがて温かな理解と思いがけない希望へと繋がっていくラストは感動的です。
そんな幻想的な世界と少女の不安、怒り、安堵などの気持ちの揺れを丁寧にかつ生き生きと描き出しているのは、絵本から高学年向けの読み物まで幅広く活躍中の高楼方子さん。読み応えのあるお話に、松岡潤さんの美しく惹きつけられる絵が、心地良く不思議な世界へと誘います。現実なのか夢なのか、その狭間にある幻惑の世界。ただ純粋に楽しんで読んでも、深く思索しながら読んでも、リリコの気持ちに自分と似たものを見つけて共感しながら読んでも、読む人それぞれに自由に堪能できる、味わい深いお話です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
リリコは、5人きょうだいの真ん中。優秀な兄、美貌の姉、ピアノの天才の妹、やんちゃな弟のなかで、何の特徴もない子と思われている。海外に引っ越した親友から手紙が来なくなり、眠れない夜にリリコは、奇妙な絵の中の「輪回しをする少女」が、親友ではと気づく。追いかけようとした瞬間、絵の中へ…。汽車に乗り込んだリリコは、不思議な旅に出る。旅のなかでリリコは自分の心と向き合っていく。幻惑と、深い感動の物語。
ちょっと不思議な世界観のある本です。
この感覚に上手くハマれるお子さんは楽しめると思います。
兄弟姉妹をはじめ友人たちとたくさんの子供たちがいますが、それぞれの性格があるのも、そこは現実も同じですね。
周りと自分を時に比べてしまったり、自分とは何かを考えて見たり、そうやって心は成長していくのですよね。 (まゆみんみんさん 40代・ママ 女の子11歳)
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