ミシェル・レリスの仕事は、代表作と目される『成熟の年齢』や『ゲームの規則』四部作に示されるように、記憶の襞の奥に入り込み、独自の「詩と真実」の追求を試みる自伝的作品に本領がある。 本書は幾重にも折り重なる「肖像」の意味を問い直すために書かれることになるだろう。画家たちが描くレリスの肖像があり、レリスが描く画家たちの肖像があり、画家たちとレリスが描く芸術家と芸人たちの肖像があり、そのなかには自画像もまた含まれている。イメージとテクストはそれぞれが鏡のようになって、鏡像が反射しあう。 ゲームとは、賭けであり試合であり見世物であり遊戯であり演戯である、レリスの「ゲームの規則」をさぐる試みもまた一個のゲームを構成することになるだろう。 没後30年、死後の生において「栄光」を手に入れたかに見えるミシェル・レリス。20世紀フランスにおける特異な存在である「文脈から逸脱をつづける人」についに共鳴する、エレガントなライフワーク。
|