地球上にはまだまだ、私たちの想像を絶する有毒生物たちがいる。本書は、そうした世にも奇妙な「毒々生物」の知られざる姿と、それを解き明かすべく(刺され、噛まれ、ときには自らその毒を摂取し)研究に挑む科学者たちを、ユーモラスな語り口で描く。
著者のクリスティ・ウィルコックスは、かつてはハワイ大学のポスドクとして有毒生物を研究しており、現在はサイエンス・ライターとしても活躍している。彼女が本書で紹介するのは……
カモノハシ:卵を生む唯一の哺乳類。その蹴爪には猛毒が潜んでおり、刺されると大量のモルヒネを投与しても全く効かないほどの激痛に襲われる。 ヤママユガの幼虫:毛のように見えるトゲの一本一本に毒がある。刺されると傷口や鼻・目の粘膜からの出血が止まらなくなる。 ヒョウモンダコ:刺されても痛みはほとんどない。だが、毒が回ると突然体が動かなくなり、やがて呼吸もできなくなる。
などなど。他にも「殺人ウニ」や、昆虫界最凶のアリなど、多種多様な有毒生物たちの生態が明かされる。
だが、本書で語られるのは、毒々生物の恐ろしさだけではない!
実はこれまで、生物が持つ毒は、その構造があまりにも複雑であるため、なぜそうした痛みや症状をもたらすのか、科学的にはわからない部分がとても多かった。しかし、近年ゲノム学が急激に発展してきたことで、その謎が徐々に明らかになってきている。
そうした知見をもとに、「生物の毒から薬をつくる」研究が進められている。実際、アメリカドクトカゲの毒から作られた「バイエッタ」は糖尿病の治療薬として広く使われている。また、トガリネズミやサソリの毒から作られた癌の治療薬はすでに臨床試験が進められており、最近ではミツバチの毒でHIVを殺せることもわかった。
そうした毒々生物の意外な科学的可能性にも触れられる、非常に魅力的な一冊。
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