本書は、近年の経済発展に伴う社会変動が著しい現代インドにおいて、さらなる社会の周縁化に直面する物乞い移動民のジョーギー(ただし多くは「定住化」している)に焦点を当てた民族誌である。砂漠を移動しながら野営生活を送ってきたノマドの彼らがいかに「定住後」の世界を生き抜いているのか。そしてそれを可能にする生の拠り所としての親族ネットワークのダイナミズムはどのように生成されているのか。 インド社会に関する既存の研究は、英国植民地期に形成され、今や現地の支配イデオロギーともなって、固定的で序列的な差異を作り出す「序列化の論理」に則して理解されてきた。それに対して本書は、ジョーギーの生活実践に見出される内在的な価値世界を「均衡化の論理」として概念化することで、先行研究の限界を克服する新たなインド社会理解のための論理を提示する。
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