谷崎文学の神髄 性と愛の交響
谷崎潤一郎は「無思想の作家」と称されていた。 階級闘争を標榜したプロレタリア文学が隆盛をきわめた時代も、戦時体制のもとに民族主義的な思潮が台頭した時代も、谷崎は魅惑的な女性の美しさを描くためだけに命をささげ作品を紡いだ。 誰しも政治、実業、学問などで身を立てることを願った、明治という立身出世の時代にあって、なぜ谷崎は社会の変革などよりも官能の充足の方がもっと大切だという人生観を抱くようになったのか。 谷崎研究の第一人者が、その人生と作品群を詳細に検証する。
【主な内容】 ・〈神童〉谷崎潤一郎 ・聖人願望 ・アイデンティティクライシス ・クラフト・エビングからの影響 ・マゾヒストの自覚 ・谷崎文学の「永久機関」 ・谷崎と浄土真宗 ・性的欲望との苦闘 ・義妹せいと小田原事件 ・小田原事件から妻譲渡事件へ ・根津松子との出会い ・女性崇拝の精神谷崎の結婚観 ・特異な性的趣向 ・夫婦の性的和合 ・松子との恋愛の深化 ・去勢願望 ・谷崎家のホームパーティ ・藝術かワイセツか
【目次】 I 作家の誕生 第一章 〈神童〉のゆくえ ─聖人願望と春の目覚め 第二章 〈性の解放〉へ向かって ─美的生活論からクラフト・エビングへ 第三章 〈永久機関〉の発明 ─『刺青』の基底にあるもの 第四章 痴愚礼讃の系譜─『痴人の愛』の方へ II 文豪への道 第五章 ヴァイニンガー再読─「タイプ」の発見 第六章 恋愛と色情─妻譲渡事件から『盲目物語』へ 第七章 〈松の木影〉の下─『春琴抄』の到達 第八章 戦中から戦後へ─『源氏物語』現代語訳と『細雪』『少将滋幹の母』 おわりに 資料翻刻 草稿「恋愛と色情」(谷崎潤一郎)
【著者プロフィール】 千葉俊二(ちば しゅんじ) 1947年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院文学研究科博士課程中退。早稲田大学教育学部教授を経て、早稲田大学名誉教授。専門は日本近代文学。 『文学のなかの科学 なぜ飛行機は「僕」の頭の上を通ったのか』『物語のモラル 谷崎潤一郎・寺田寅彦など』『物語の法則 岡本綺堂と谷崎潤一郎』『谷崎潤一郎の恋文 松子・重子姉妹との書簡集』など著書多数、決定版『谷崎潤一郎全集』(全26巻)の編集委員。
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