綺想とロマン主義の博学英文学者が人生をかけ蒐集し作りあげたローマの自室を巡る。古代から伝承する記憶術を想起させる自伝的作品。
綺想、そしてロマン主義の英文学研究で名高いイタリア人学者が1934年から69年まで住んだローマ・ジュリア通りのパラッツォ・リッチの部屋をひとつずつめぐり、室内を通して時代と人生を語る。 ナポレオン帝政様式の家具や絵画、蔵書棚が埋め尽くす食堂・大広間・子ども部屋・寝室……。〈もの〉の記憶から過去の時代や物語が紡ぎ出されるさまは、古代からルネサンスへと伝承した「記憶術」をも想起させる。 ファシズムと戦争。孤独なイギリス時代。書物と現実のなかで出会った人びと。キャリア形成の運と不運。愛した女性たち。結婚と離婚。蒐集への情熱。 やがて著者は黄昏のなかで、自らの老いと骨董品化に向きあう。全篇に漂うアイロニーから悲哀が光を放つ。 館の中で紡がれる空間と時間を超えた博識の旅。これは20世紀の類を見ない文学であり、自伝的作品である。記憶と家の描写が絶妙に絡み合うなかで、著者が語るのは幸福の探求ではなかったか。 著者が晩年を過ごした自宅パラッツオ・プリーモリは現在、「マリオ・プラーツ美術館」として公開されている。 折り込みのカラー口絵8枚のほか、室内装飾を伝える写真を多数収載。
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