大人は、はじめから大人だったわけではありません。 けれども、そのことを大人自身が忘れがちだったり、ましてや子どもが目の前にいる大人の子ども時代のことを想像するというのはなかなか難しいことではないでしょうか。この物語はそんな「大人の中にある子どもの時のこと」そして「大人の時代」と「子どもの時代」のつながりについて貴重な気づきをくれる1冊です。
「こそあどの森」に住んでいる少年スキッパーは、ある日、同じく森に住む作家のトワイエさんから借りた本の中に、1枚の写真を見つけます。それはトワイエさんが子どもの頃の写真でした。興味を持ったスキッパーと、たまたまスキッパーのところに遊びに来ていたふたごは、トワイエさんのところへ子どもの頃の話を聞きにいきます。その話には、トワイエさんが作家になろうと思った秘密が隠されていました。 その後も、スキッパーとふたごは、森に住む大人たちにそれぞれの古い写真を見せてもらいながら話を聞いていきます。トマトさんには料理がとくいになったわけを、ギーコさんにはお気に入りの木で出会ったひとたちのことを、ポットさんには体をふくらませるサーカスの風船男と出会った話を、スミレさんには森のおばあさんと過ごした時間の話を。 大人たちの話を聞き終わった帰り道、スキッパーとふたごの心にはどんな思いがめぐったのでしょうか。
「日本のムーミン谷」ともいわれる「こそあどの森の物語」シリーズはすでに12巻刊行されており、こちらは、その番外編として書き下ろされた初の短編集。第69回産経児童出版文化賞の大賞を受賞され、話題となっている作品です。シリーズをまだ読んだことがないという方は、この本をきっかけに読み始めるのも良いですが、もし時間があれば12巻のお話を読み終えた後に、本作品を読むのが個人的にはおすすめしたい読み方です。森の住人たちのキャラクターや雰囲気が頭にある状態で本作品を読むと、それぞれの個性や大切にしているものがどのように育まれてきたのか、その種明かしのような楽しさと出会えるからです。
森の中に海賊船がある景色が一番はじめに思い浮かび、そこから誕生したという「こそあどの森の物語」シリーズ。作者の岡田淳さんはこう言います。 「ぼくらは一人一人が海賊船なんじゃないかと思ったんです。」 「海賊船は出会った船とか立ち寄った港とかで奪い合うけれど、ぼくたちも誰かと関係を持つとき、ある部分を奪い奪われという関係になるんじゃないか…と。もちろん、支え合うこともあって、良いにしろ悪いにしろ、お互い何かしら影響し合うんですよ。」
スキッパー、ふたご、ポットさんとトマトさん夫婦、スミレさんとギーコさん姉弟、作家のトワイエさん、それぞれに性格も個性的なら、住む家もとても変わっています。そんな接点のなさそうな住人たちが、さまざまな出来事や謎や訪問者をきっかけに、知恵を出し合ったり、誰かの弱さを知ったり、関係性の中で影響し合いながら変わっていくところに読み応えがたっぷりあります。とくに、ひとりでいることが何よりも好きだったスキッパーが森の住人たちと関わりを持つことで大きく成長していく様には心がぐっと掴まれるでしょう。この物語を読む子どもたちも、スキッパーと同じように、心の深い部分を静かに成長させながら読んでいくように思われてなりません。
今回の番外編を含めると13巻となる「こそあどの森の物語」シリーズ。1度この物語に出会ったならば、私たちはいつでも好きな巻を手にとって、こそあどの森の住人たちに会いに出かけることができます。そんな心の奥に宝物のようにひそませておきたいとっておきの物語です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
この森でもなければ、その森でもない、あの森でもなければ、どの森でもない、「こそあどの森」。 トワイエさんから借りた本に挟まっていた、トワイエさんが子どものころの写真。いつどこで撮ったもの? スキッパーは話を聞かせてもらいます。そして、次はトマトさん、ギーコさん、ポットさん、スミレさん……こそあどのおとなたちの家をまわって聞かせてもらう話は、とっても不思議で、しかも、いまのトマトさんたちにとって大切な話ばかり。「こそあどの森の物語」全12巻の番外編として書き下ろされた初の短編集です。
編集者コメント 番外編の執筆にあたり、作者はまず「こそあどの森」にくらすおとなたちの子ども時代のフォトアルバムをスケッチブック5冊にスケッチしました。おとなたち5人の個性豊かなパーソナリティがどのように育まれてきたのか──「こそあどの森の物語」への入り口になる一冊です。
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