ある二月の日曜日、広い公園の真ん中に開店したチョコレート屋さん『ムッシュ・チョコット』。チョコにそえるカードに、あげた人の似顔絵がついていたら、もらった人はきっとうれしいにちがいない。そう思いついた店長さんのお手伝いで、チョコを売る係の森田さんと一緒に、似顔絵をかく係となった「わたし」。
コロキパラン‥‥‥キロラポン‥‥‥ コロキパラン‥‥‥キロラポン‥‥‥
開店準備をしているわたしたちのところに時おり流れてくるきれいなオルゴールの調べ。それは、少し離れたベンチのそばで、ひとりのおじさんが車輪つきの大きな木箱のハンドルを、ゆっくりゆっくり回すところから聞こえてきます。「楽しいっていうか、ふしぎっていうか、なんだかおとぎばなしみたいな感じ」と喜ぶ店長。いよいよお店の開店です。
「まあ、似顔絵をかいてもらえるの?」 チョコを買ったお客さんがつぎつぎに、「わたし」の前に座ります。
キュイ(ちら)、キューイ(ちら)、ショショショ(ちらちら)、サッサ、キョイキョイ‥‥‥。
ペンを走らせながら、実は似顔絵を描いたことのない「わたし」は複雑な気持ちです。 それでも目をキラキラさせ、口元でわずかに笑いながら、似顔絵を楽しみに待つ人たちをがっかりさせてはいけないと懸命にペンを走らせます。 へたくそなのがばれないように、そっくりに。でもちゃんとすてきに。 そうしてようやく筆がのってきた頃、つぎつぎに小さくてかわいらしいお客さんがあらわれて‥‥‥。
冬の公園にやってきた甘いチョコレートと、おとぎばなしのようなオルゴールの調べ。そこに似顔絵を待ったり、できた絵に喜んだりするワクワクした気持ちが、春を待ちわびていた小さなものたちを呼び寄せたのでしょうか。
やわらかくリズミカルなたかどのほうこさんの文章は心地良く、小学4年生ぐらいからすいすいと読めてしまうような楽しさがあります。また、網中いづるさんが描く色彩豊かで心が浮き立ってくるような挿絵は、まるごと春の喜びを感じさせてくれるよう。 春を待ちわびるみんなに届けたくなるようなささやかな魔法が詰まった一冊です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
冬のおわりの公園で、バレンタインチョコにそえる似顔絵をかくアルバイトをする「わたし」。どこからかオルゴールの音色が聞こえてくると、似顔絵の行列には、ふしぎな子どもたちが並んで……。公園のかたすみにいる小さなものたちの輝きを描いた物語。
作・たかどのほうこ(高楼方子) 函館市に生まれる。主な作品に『へんてこもりにいこうよ』『いたずらおばあさん』(この2冊により路傍の石幼少年文学賞)『キロコちゃんとみどりのくつ』(児童福祉文化賞)『十一月の扉』(産経児童出版文化賞)『おともださにナリマ小』(産経児童出版文化賞・JBBY賞)『わたしたちの帽子』(赤い鳥文学賞・小学館児童出版文化賞)『わたし、パリにいったの』(野間児童文芸賞)。その他、『ココの詩』『時計坂の家』など多数。
絵・網中いづる アパレル会社勤務を経てイラストレーターとして独立。1999年ペーター賞。2003年TIS公募プロ部門大賞、2007年講談社出版文化賞さし絵賞受賞。装画の作品に「完訳クラシック赤毛のアン」シリーズ「プリンセス・ダイアリー」シリーズ『三つ編み』などがあり、さし絵や絵本の作品に『むく鳥のゆめ』(作・浜田廣介)『だれにもいえない』(作・岩瀬成子)などがある。
32ページほどの絵本です。
春を待つ季節、そんな季節にぴったりな1冊です。
私はチョコレート大好きなので、チョコレート屋さんは魅力的だなぁ!見てみたい!食べてみたい!
そんな想像に駆られました(笑)。
たかどのほうこさんの絵本は面白いので、お子さんへの読み聞かせ、お子さんの一人読みにおすすめです。 (まゆみんみんさん 40代・ママ 女の子11歳)
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