歴史探偵≠ニ自らを称した半藤一利は、共著も含めれば100冊近い書物を遺しました。書籍化されていない雑誌記事を含めれば、その仕事量はじつに膨大です。 半藤を比類のない存在にならしめたのは、資料探索による無尽蔵の知識と取材による見聞の双方から成る蓄積といえます。氏の仕事をさらに価値あるものにしているのは、そうした莫大な蓄積を土台にした上で、史料の裏側を読む確かな視点があったからだと思われます。史料の裏側を読むとは、人の心理を読むことでもありましょう。なぜなら、本人も言うように、「歴史とは人間学」だからです。 だからこそ、半藤の人物評、つまり月旦は面白いのです。 今回、本書を編むにあたって、半藤が人物を評している部分にスポットを当てました。 人物は昭和史を彩る人物たちに限りました。とはいえ、軍人と政治家についての言及がほとんどを占めています。 これらの軍人と政治家は日本の歴史を動かしたキーパーソンです。 したがって、本書を一読すれば歴史が大づかみでわかるようになっています。また、当時の国民の空気や熱が背中を押すものとしてあったにしても、歴史を一歩前に進めたのは、どの場面でもごく少数の人たちであったことがわかります。 良い例をあげれば、鈴木貫太郎と昭和天皇の阿吽の呼吸がなければ太平洋戦争は確実に延びていたし、日本の被害は拡大していたでしょう。逆に、悪い例として歴史の「if」を言うなら、近衛文麿、伏見宮博恭王、東条英機、永野修身、松岡洋右らがあの時あのポジションに就いていなければ、日中戦争や太平洋戦争も起きなかったのかもしれません。 それはさておき、とりわけ戦争という異常な状況において、人は正体をさらけ出します。その人間模様は、さまざまな示唆に富んでいます。それはまた現代のビジネスパーソンの戦いの場にも通じる普遍的な人間の姿ともいえるでしょう。
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