【「はじめに」より】
『徒然草』は、高校の教科書にも必ず出ていて、 どなたも少しは読んだことがおありであろうと思う。 『枕草子』と並んで、随筆文学の傑作として、 古今の名著とすべきものであることは当然であるが、 といってやはり、なかなか全部を通読した人はそんなに多くはないかもしれない。 ひと続きの長い物語ではないから、かならずしも巻頭から巻末まで 通読する必要もなく、気の向いたときに随時任意のページを開いて散読するのもよい。 しかし、読み始めると、つい次の段も読んでみようかという気になって、 いつの間にか読み耽ってしまう、それがこの本の卓抜なる力である。 (「はじめに」より)
------------------------------------------------------------------- とにもかくにも、虚言の多い世の中である。 されば、嘘などは常にある珍しくもないことと思っておけば、 万事間違わぬことであろう。
およそ人はこぞって、自分にとって縁遠いことばかりを好むように見える。 改めても益のないことは、改めないのを良しとするのである。 名声や利欲に振り回されて、閑かな暇もなく、 一生をあくせくと苦しめて終るのは、それこそ愚かなことだ。 -------------------------------------------------------------------
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